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技術コラム

X線CTの原理

ここではX線CTの原理を説明し、その上で医療用と産業用の違いについても説明します。
まず「CT」というのは「何らかの光(放射線)を対象物に照射し、その結果、透過してきた放射線を検出する事で、材質や内部構造を知る」方法であり、「Computed Tomography(コンピュータ断層撮影)」の略称です。従って「X線CT」は、光源としてX線を使っているCTということになります。
X線を透過しさえすれば、どの様な対象物であっても被検体となり得るのですが、想像しやすいのは医療用として人体を対象にしたX線CTでしょう。発想はレントゲンと同じですが、医療用CTの場合、単純CT検査と造影剤を使う造影CT検査があります。造影CT検査では造影剤を血管から注入することで、血管や特定の組織を撮影できるようにしています。この場合、X線発生器(X線管)から放出されたX線が人体を通り抜ける際に、造影剤がある部分はX線が透過しにくくなり、X線検出器(イメージ管やフォトダイオード、シンチレータ付きフォトダイオードなど)にはほかの部位よりもX線量が少なくなって検出されます。そのため、X線検出器が検出したX線の強度によって現れたイメージの濃淡が、血管などの組織の場所を示すことになるのです。
もちろん医療用以外にも産業用として利用されることもあります。内部を検査する際に分解したり破壊したりできないものを、X線CTによって検査するのです。いわゆる「非破壊検査」の一種です。この場合、医療用と産業用では大きな違いがあります。まず、産業用ではX線発生器とX線検出器を対向させて固定し、被検体を回転テーブル(回転ステージ)上に置くことによって、360°の撮像を可能としています。また、この回転テーブルをX線発生器に近づけるまたは遠ざけることで、倍率の変更が可能です。
一方、医療用の場合は人間を回転テーブルに載せてぐるぐる回すわけにはいかないため、X線発生器とX線検出器がセットで人間の周りを回転します。

医療用CTと産業用CTの違い

図:医療用CTと産業用CTの違い

また、産業用CTには横照射型CTと縦照射型CTがあります。横照射型CTは左図の様にX線発生器、回転テーブル、X線検出器が横一列に並びます。一方、縦照射型CTではこれらが縦に並びます。

横照射型CTと縦照射型CT

図:横照射型CTと縦照射型CT

どちらも同じ様に見えますが、縦照射型CTは横照射型CTと比較して高さは必要になりますが場所を取らないというメリットがあります。一方、横照射型CTは縦照射型CTと比べて場所を取ってしまうというデメリットはありますが、サイズの大きい、または重量の大きな被検体を取り扱うことができます。縦照射型CTだと重量のある被検体は回転テーブルへの固定が難しくなります。従って、どちらのタイプを使うべきなのかは、被検体の大きさや重量、場合によっては形状を考えて行う事になります。

このX線CTは1990年代からマイクロフォーカスX線を用いることで、解像度が向上してきました。X線発生器では陰極で発生した電子線をコイル、レンズで収束させ陽極に当てることでX線を発生させています。この陽極の電子が収束して当たり、X線が発生する部分をX線焦点と呼びます。

開放管型X線CTの構造

図:開放管型X線CTの構造

X線焦点サイズとボケの範囲

図:X線焦点サイズとボケの範囲

またX線焦点を小さくすることは、倍率を上げなくても解像度の向上に繋がります。そのため、ミニフォーカスX線として使う場合にもより高い解像度が得られますし、X線CTとしても分解能の高い3Dイメージを作成することが可能となります。
一方、マイクロフォーカスX線には問題もあります。X線焦点を小さくするということは、狭い範囲に電子線を集中させるということと同義ですが、そうすると陽極の1箇所の温度が上昇しすぎてダメージが発生してしまう可能性があります。それを防ぐためにX線量を少なくする必要がありますが、そうすると今度は像が暗くなり、十分なS/N比を得られない可能性があるのです。ですから解像度とS/N比のバランスを考えながら使用することが求められます。

X線CTのスキャン方法と取り扱い上の注意

他にもX線CTを取り扱う上では注意すべき点があります。測定に誤差を及ぼす要因としては、大きく分けると8つの要因があります。

  1. X線源
  2. 幾何誤差
  3. 運動誤差
  4. 検出系
  5. 試料物性
  6. 条件設定
  7. 環境
  8. データ処理

まずは、X線源の温度安定度とそれによるドリフトです。周囲や自身の温度変化によって、熱による膨張や出力電圧などの変動が起こった場合、これを温度ドリフトと呼んでいます。この温度ドリフトは電子ビームの照射位置のずれを引き起こしますので、これをいかに小さくするかが誤差を防ぐのに必要です。
温度ドリフトが起こると、焦点位置がずれることにより、光軸にブレが発生し、CT画像の輪郭にコントラスト不良や物質の密度が正確に求まらないなどの問題を引き起こします。
2つ目の幾何誤差は、回転テーブルの位置が理想状態からずれることで起こります。3つ目の運動誤差も回転テーブルの回転が指示したとおりになっていないと発生します。幾何誤差は寸法のずれを引き起こし、運動誤差は3Dモデルの正確性を損ないます。
4つ目の検出系は、姿勢や位置のずれによる投影像のボケと、もう一つは複数並べられたX線検出器間の感度差やノイズ特性によって像が不明瞭になる点に注意が必要です。
ここまではX線CTそのものの物理的な要因によって生み出される誤差です。ですからこれらの誤差が発生しないようにするには、どれだけしっかりとキャリブレーションをしているのかが重要です。X線焦点から放出されるX線強度が安定していること、そしてX線検出器の感度差やノイズ特性を事前に把握しておくことの2つができれば、正確なデータを取ることができます。もちろんX線発生器、回転テーブル上の被検体、X線検出器の軸校正も重要です。
そして残る4つのうち5つ目の試料特性は被検体の特性によって引き起こされるものです。あとの3つは測定方法とデータ処理時に発生するものです。実は試料が金属であった場合は「メタルアーチファクト」が発生します。この「アーチファクト(artifacts)」というのは、実際の物体ではない、撮像時の条件によって二次的に発生した画像を指します。メタルアーチファクトはX線吸収率の低い物質内に吸収率の高い金属が点在する場合に発生します。これはより低エネルギーのX線が吸収されるためで、ビームハードニング補正を行う事で緩和することができます。
その他、被検体のX線吸収率が低い場合で特定のX線検出器から信号が出て来なかった場合に発生する「リングアーチファクト」や、特定の方向からの信号が出力されなかった場合に発生する「シャワー状アーチファクト」、特定のX線検出器で特定の方向からの信号が出力されなかった場合に発生する「ストリーク状アーチファクト」などがあります。

メタルアーチファクト

メタルアーチファクト

リングアーチファクト

リングアーチファクト

シャワー状アーチファクト

シャワー状アーチファクト

また、誤差やノイズの低減には、スキャン方法によって変わる部分もあります。スキャン方法はX線発生器、回転テーブル上の被検体、X線検出器のそれぞれの中心を直線上に配置するノーマルスキャンが一般的です。しかしノーマルスキャンでは大きな画像を得るためにはX線検出器の面積を大きくする必要があります。そこで、X線検出器の大きさはそのままに、中心を軸からずらすことで大きな画像を得る「オフセットスキャン」という方法を取る場合もあります。この場合、回転軸と光軸中心がずれていますので、画像構成時に補正を行わなければ、正確な画像を得ることはできません。

スキャン方法の違い

図:スキャン方法の違い

また、撮影中に回転テーブルの位置を前後に移動させることにより、被検体の立体構造を短時間で撮影するヘリカルスキャンという撮影方法もあります。この場合は、回転テーブルの回転と同時に断層の位置が変化してきますから、こちらも画像構成時に注意が必要です。

次回、X線非破壊検査シリーズ②では「X線CT像で得られる情報とその見かた」を紹介します。

参考文献