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技術コラム

前回はX線CTのしくみについて解説しました。今回は撮影されたデータをどの様に保存するのか、そしてそのデータをどの様にして活用するのかについて紹介しましょう。

X線CT像の保存ファイル

X線CTの結果は、基本的には画像ファイルとして保存されます。X線CTによって得られたX線の透過撮影画像から断層画像として再構築します。この断層画像はレントゲンなどと同じくモノクロの画像ですので、ファイル形式としてはモノクロ画像をラスタデータとして扱う形式であれば、何でも構わないということです。
例えばデジカメで良く使われるJPEG形式、もう少し生データに近いものだとRAW形式。モノクロ画像の保存によく使われるTIFF形式などがあります。また、医療画像形式としてはDICOM形式が主流となっています。X線CT画像はこの断層画像を積み上げたもの(スタック画像と言います)を指します。

ここではDICOM形式についてもう少し詳しく掘り下げてみましょう。
DICOMとはDigital Imaging and Communications in Medicineの略で、「医療分野におけるデジタル画像と通信」のための規格の名称です。つまりDICOM形式は医療用画像の共通化規格を満たした画像を表示する形式と言えます。
DICOMはアメリカ放射線学会(ACR)とアメリカ電気機器工業会(NEMA)が合同で策定した規格で、医療分野における画像フォーマットと通信プロトコルの両方を標準化することを目的に策定されました。1980年代に標準化が始まり、1983年のACR-NEMA規格V1などを経て、1998年にDICOM初版が公開されました。以降はこの規格が世界の医療機器、特にX線CT装置や、その画像を表示・活用するシステムではデファクトスタンダードになっています。つまりDICOMに対応した医療機器であれば、メーカーが異なっていたとしても、相互にデータのやりとりができるということです。標準化作業は現在も続いていて、多くの医療機器メーカーがDICOMに対応した製品を開発しています。
DICOMの画像フォーマットは、主にテキストによる撮影日時などにまつわる情報、患者の氏名、ID、誕生日などの情報をヘッダとして格納し、その後に画像フォーマット情報と、画像ピクセルデータが格納されています。このフォーマットが共通化されていることから、データのやりとりが正しく行えるようになっているのです。

DICOM形式のフォーマット|松定プレシジョン
図:DICOM形式のフォーマット

DICOM形式の画像では、一般的にRAW形式、JPEG形式がよく使われています。元の情報を全て残すのであればファイルサイズが大きくはなりますがRAW形式で、画像として確認できれば問題ないというのであればJPEG形式を利用しているようです。このあたりはデジタルカメラのファイル保存の考え方と同じです。
またJPEGの場合は可逆圧縮エンコードである「JPEG Lossless, Nonhierarchical, First- Order Prediction」も選択可能です。ただし、この形式の場合、一般的なソフトウェアでは読み込めない場合がありますので、注意が必要です。

X線CT画像の応用

このようにして得られたX線CT画像ですが、X線光源の小焦点化により高精細な画像が作成できるようになっています。それにより、微細なCT画像が得られ、処理装置の計算能力向上による処理時間の短縮などもあり、活用・応用されるシーンが増えています。
例えば得られた画像をスキャンした時系列に並べることで、被検物を輪切りにした断層面の変化を動画として観ることができる様になります。これによって1枚の画像では発見できない被検物の問題点(人体の場合は腫瘍など)を発見しやすくなります。この場合、断面動画や3D動画は、AVI形式で出力ができます。もちろんMP4などのWeb上で利用できるファイル形式に変換することも可能です。

この応用として、X線CT画像を基にして3次元構造を立体的に確認するリバースエンジニアリングがあります。この場合は一連の断面画像を動画にする(時系列に並べる)のではなく、空間的に縦に並べることで、擬似的な立体模型を作成することができます。いわば、CAD等の3次元データにすることができるわけです。これは寸法測定や体積測定、密度測定をも行えることを意味します。特に寸法測定には測定誤差の評価が必要ですが、これは各メーカーの努力によって、数μm程度にまで減らすことに成功しています。
これによってできあがった製品と設計図面とを比較すれば、どの程度の精度で製作できたのかを比較することができる様になります。つまり設計データとの比較によって精度が出ていない部分を発見できれば、製造工程の改良に役立てることができます。

コネクタのCT画像における寸法測定|松定プレシジョン
コネクタのCT画像における寸法測定|松定プレシジョン

図:コネクタのCT画像における寸法測定

これら、X線画像を再構成したCT画像(3次元ボクセルデータ)や、多方向からの断面画像を扱う3D表示(MPR表示)ソフトウェアとしては、ボリュームグラフィックス株式会社の「VGSTUDIO MAX」というソフトウェアがデファクトスタンダードになっています。CT画像を解析するための機能が多く搭載されているため、リバースエンジニアリングには最適だと言えるでしょう。

次に内部を透視しての非破壊検査ができるということは、作り上げたものを破壊せずに検査することができます。例えば、ガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastics、GFRP)や炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics、CFRP)などの繊維強化プラスチック(FRP)業界では「形を作り」そのあとで「破壊して評価する」ということが行われてきました。特に繊維の配向解析を行うには破壊検査を行うしかなかったのですが、X線CTを利用することで、破壊せずに評価できるようになりました。
もちろん同じ事は鋳造の現場でも行えます。欠陥検査やクラックの発見が非破壊検査で行えることで、サンプル検査ではなく、全数検査を行う事もできます。

FRPの繊維配向解析|松定プレシジョン
FRPの繊維配向解析|松定プレシジョン

図:FRPの繊維配向解析

その他、CADデータなどへの3D化が可能であるということは、3Dプリンタでの出力も可能だということです。3Dプリンタで利用されるCADデータは、三次元形状のデータを保存するファイルフォーマットの一つである、アメリカの3D System社が開発したSTL形式が最も普及しています。STL形式とは、Standard Triangulated Language の略で、海外では、名称の由来であるStereolithography(ステレオリソグラフィー)と呼ばれています。三次元形状をメッシュデータとして保存しているのが特徴です。
市販されているほとんどのメジャーな3D CADソフトには、STL形式へのエクスポート(出力)を標準で搭載していますから、3Dプリンタへの対応もそれほど難しくありません。
もちろんX線CT画像から三次元形状を構築するためには、表面形状がなめらかになるよう撮影されている必要があります。つまり元々の撮影データが低ノイズである必要があります。

X線CT画像ファイルの活用例

では、これらのファイルはどの様に活用されているのでしょう。先ほどリバースエンジニアリングで利用されているという話をしましたが、活用の例としては、設計図との比較以外にも、設計図のない部品であっても3Dモデルを作成できるようになるというものがあります。そうしてできた3Dモデルに可動部分を設定すれば、コンピューター上で動作シミュレーションを行う事ができます。

一方、医療分野でも活用が進んでいます。患者のCT画像からSTL形式の3Dデータを作り3Dプリンタで出力することで、その患者の臓器を実物大で再現する(臓器の模型にする)ことができます。これは、難しい手術を行う場合に、事前にどの様な手順で行うかを確認するのに使われます。
もちろん他にも活用方法はあります。インターン向けに研修を行う際などの医学教育教材としての活用ができます。人体の構造と機能や、病態の可視化を行う事ができますので、一般人への啓蒙活動にも利用できます。
また、手術を行う患者に、事前に実物大のモデルを見せることで、インフォームドコンセントがやりやすくなります。手術の手順だけを口頭で説明するより、模型を見せて、どの様な手順でどこを治すのか、正確で分かりやすい情報として提供できるようになります。
3Dプリンタが使いにくい場合は、VR(仮想現実)コンテンツとして活用するという方法もあります。DICOMデータから3D化したデータをVRで利用するOBJ形式に変換するサービスも提供されています。これを活用すれば、VRを用いた手術シミュレーションも可能ですし、大きく拡大した人体の内部に、自分が小さくなったような状態で入り込んで、各臓器などの様子を見ることも可能です。もちろん、人体以外にも、工業製品の内部構造をVR化することも可能です。
このようにX線CT画像は、フォーマットが共通化されてきていることもあり、新しく生まれた技術と繋がりながら、これまでは考えられなかったような活用方法を生み出しています。

参考文献