X線管には、用途に応じた多彩な形状のX線管がありそれを使用するための高圧電源や制御回路もいろいろ存在します。ここでは、各種のX線管と3種類の高電圧回路について説明します。X線管は、シンプルなX線管、Be窓付X線管、回転陽極型X線管、セラミックスX線管、エンドウインドウX線管、X線回折装置用X線管、マイクロフォーカスX線管、開放型X線管(透過ターゲット型X線管、反射ターゲット型X線管)について解説します。3種類の高電圧回路は、陽極接地接続、陰極接地接続、バイポーラ接続について解説します。
シンプルなX線管
シンプルな形状のX線管は、熱電子の発生するフィラメント(陰極)とX線の発生する陽極をガラス管の中に固定し、真空にした構造になっています。比較的小型な管が多く、20kVから130kVくらいの電圧で使用されています。X線による非破壊検査や異物検査、分析用途や医療用途で使用されます。通常は、絶縁油の入った専用の金属ケース(X線管用のハウジング)に入れ、X線の漏洩を減らして、安全に取り扱いやすくして使用されます。表面を樹脂などで覆って使われる場合もあります。また、インフラなどの非破壊検査では、X線ユニット軽量化の為、絶縁油の代わりに絶縁ガスを封入したX線のシールドケースが用いられています。高圧電源の接続は、陽極接地接続でも陰極接地接続でもバイポーラ接続でも使用可能です。
Be窓付X線管
Be窓付X線管とは、X線の出力部分にベリリウム(元素記号Be, 原子番号4)が付いたX線管です。X線の出力部分をベリリウムにすることで、低エネルギー(長波長)のX線まで利用することができます。管電圧は、数キロボルトから80kVまでで、主にX線分析用に使用されます。一般的なX線管よりも20万円ほど高価になります。
回転陽極X線管
回転陽極X線管は、電子線が当たってX線の発生する陽極が回転する構造のX線管です。陽極が回転することで、熱を分散させることができ、管電流を増やしてX線の強度を上げることが出来ます。主にCTやレントゲンなど医療用に使用されています。構造が複雑な為、非常に高価なX線管となっています。
セラミックX線管
X線の筐体がガラスではなくセラミックスでできたX線管です。熱や衝撃に強く主に非破壊検査に使用されます。
他にもハンディータイプの蛍光X線分析装置や軟X線式の除電用X線管に、セラミックスでできた小型X線管が作られています。
エンドウインドウX線管(XRF用X線管)
エンドウインドウX線管は、ベリリウム窓の位置がX線管の端面にあるX線管です。主に蛍光X線分析装置(XRF)に使用されます。X線が発生する陽極がBe窓端面の近くにある為、分析試料までの距離を短くし、多くのX線を照射することが出来ます。蛍光X線分析装置に使用されるため、陽極のターゲットはロジウムなども選択可能です。X線管用の電源は、陰極接地型の高圧電源を使用します。X線の管電圧は、50kVから80kVまでで、パワーは、50Wから4kWまでが使用されています。
- 主なメーカー
- MICRO X-RAY: https://microxray.com/
- VAREX IMAGING: https://www.vareximaging.com/products/security-industrial/industrial-x-ray-tubes/x-ray-analysis/
XRD用X線管
XRD用X線管は、X線回折装置(XRD)に使用されるX線管です。XRDは分析対象によりターゲット材料の違うX線管が使用される為、簡単に交換できるような構造になっています。各社からXRD用のX線管が販売されていますが、互換性が高くメーカーを変えても使用できます。ただし、ショートアノードとロングアノードの2種類があるので注意が必要です。また、それぞれガラス管タイプとセラミック管タイプが市販されています。電圧は60kVまでですが、X線管のパワーは1kWから4kWと大きく、水冷による冷却が必要です。XRD用のX線管は、陽極接地型になります。
- メーカー
- Philips/Panalytical: https://www.malvernpanalytical.com/en/products/category/x-ray-tubes/xrdtubes
- Siemens/Bruker: https://www.bruker.com/en/products-and-solutions/diffractometers-and-x-ray-microscopes/x-ray-diffractometers/davinci-components/sources.html
- PROTO: https://www.protoxrd.com/products/x-ray-tubes/overview
- AXT Pty Ltd (AXT): https://www.axtxraytubes.com/ceramic-xrd-tubes/
マイクロフォーカスX線管
マイクロフォーカスX線管は、X線の発生する部分が数マイクロメーターから数十マイクロメーターになっているX線管です。マイクロフォーカスX線管では、フィラメントから発生した電子を収束させて陽極(ターゲット)に当ててX線を発生させます。X線の発生する部分は焦点と呼ばれ、これをマイクロメーターサイズに小さくすることにより、拡大撮影したX線画像でもシャープなX線画像が得られます。その為、微細な構造の電子機器などを非破壊検査する際に使用されます。
マイクロフォーカスX線管では、電子を収束させるため加速用の高圧電源のほかに、複数の電極が必要です。
加速電圧は、90kVから150kVが使用されています。
マイクロフォーカスX線管には、次に紹介する開放型X線管と密閉型のマイクロフォーカスX線管があります。
開放型X線管
開放型X線管は、フィラメントやターゲットの交換を可能にしたX線管です。X線管内部を真空ポンプで排気し、真空にして使用します。開放型X線管の多くは、マイクロフォーカスやナノフォーカスサイズの焦点径になっていて、微小な部品を透過撮影し拡大してもボケの少ない画像で撮影することが出来ます。また、開放型X線管には、「透過ターゲットタイプ」と「反射ターゲットタイプ」があります。反射ターゲットタイプは、通常のX線管と同じように電子の入射側に発生するX線を利用します。一方、透過ターゲットタイプの開放型マイクロフォーカスX線管は、ベリリウムウインドウやダイヤモンドウインドウにターゲット材料であるタングステンなどを蒸着させたターゲットを使用します。タングステンターゲットに電子が入射すると360度全方向にX線が発生します。反射型のX線管では、ターゲットが分厚いのでその背面方向に出るX線は非常に少なくなります。透過型ターゲットのX線管では、タングステンターゲットが薄くその母材(窓材)がベリリウムやダイヤモンドなので背面方向からも多くのX線が出ます。このX線を利用するのが透過ターゲット型のマイクロフォーカスX線管です。透過ターゲットは、X線の焦点(X線発生ポイント)とサンプルの間を非常に短くすることができ、拡大倍率を大きくすることが出来ます。ただしターゲットの熱容量の問題でターゲット電流を多くすることが出来ません。開放型X線管は、加速電圧が100kVから300kVまでの製品が市販されています。
3種類の高電圧回路
陽極接地接続
陽極接地接続は、発熱の大きなX線管の陽極をグラウンド電位にできるため放熱のやり易い接続方法です。電源は、陰極側にネガティブ出力の高圧電源を接続しますが、その電位の上にフローティングされたフィラメントの電源も必要になります。その為、2極以上の高電圧コネクタにて接続する必要があります。XRD用のX線管や開放型マイクロフォーカスX線管、セラミックX線管などがこの接続方法に該当します。
陰極接地接続
陰極接地接続は、X線管のフィラメントの片方をグラウンド電位にし、陽極側にポジティブ出力の高圧電源を接続する方法です。X線管の加速用高圧電源(管電圧)と、フィラメント電源はそれぞれグラウンド電位から制御できます。X線管の管電流は、フィラメントのパワーで制御します。密閉型のマイクロフォーカスX線やエンドウインドウタイプのXRF用X線管がこの接続方法に該当します。ハイパワーのXRF用X線管では、陽極の冷却に純水による水冷を用いています。
バイポーラ接続
バイポーラ接続では、X線管の陰極にネガティブ出力の高圧電源を接続し、陽極にポジティブ出力の高圧電源を接続します。X線の加速電圧(管電圧)を大きくしたい場合に用いられる接続方法で、例えば320kVの管電圧が必要な場合、陰極側に-160kVの高圧電源を接続し、陽極側に+160kVの高圧電源を接続します。
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