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技術コラム

近年、世界的に電気自動車(EV)の需要が増加しています。EVにはBEV(バッテリ式電気自動車)、HEV(ハイブリッド自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド自動車)、FCEV(燃料電池自動車)などがあります。また他にも、自己充電式EVや発電機を搭載して電気モーターで走行する電気自動車などもあります。この記事では、EVのなかでも充電を必要とするBEVやPHEVについて、電源系統の構成や電源の種類について解説します。電気自動車の電源回路について知識を身につけたい方から実務で活用したい方まで、ぜひ最後までお読みください。

電気自動車の充電方法

BEVやPHEVは、外部電源で充電し、その電力を使用して走行します。BEVは外部から得た電力のみでモータを動かす自動車です。動力はモータのみで走行中に二酸化炭素を排出しないのが特徴です。PHEVはエンジンとモータの両方を備えており、状況に合わせてエンジンで走行したりモータで走行したりします。電力には自動車の減速時などに得られる回生エネルギーと、外部電源からの充電の電力の両方を使用します。
電気自動車の充電方法は、普通充電と急速充電の2種類に大別されます。

普通充電(交流充電)

普通充電は交流充電ともよばれ、家庭用のコンセントや、家庭用の電源を接続した普通充電器や車載のEV充電ケーブルを用いて充電する方法です。家庭用の電源ですので、AC200VやAC100Vが用いられ、自動車にも交流のAC電源が供給されます。電気自動車のバッテリーを充電するためには直流が必要なため、普通充電を行う際には、車両に搭載されているOBC(オンボードチャージャー)でACからDCに変換してバッテリーに充電されます。OBCについては後のOBCの章で詳しく述べています。

日本やアメリカで普通充電に適合するコネクターは、コネクター規格、 SAE J1772や IEC62196-2 type1で定義されています。

普通充電は、家庭や、業務用電源のない場所でも設置できるのがメリットです。充電器の価格も、家庭用コンセントを使うものであれば数千円程度から、専用充電器であっても数十万円程度と、比較的安価に設置できます。しかし充電スピードが低いのがデメリットで、バッテリ残量が0の状態から満充電までには12時間近くかかることもあります。

日本 アメリカ ヨーロッパ・他の地域 中国
形状 J1772, Type 1|松定プレシジョン
J1772, Type 1
J1772, Type 1|松定プレシジョン
J1772, Type 1
Mennekes, Type 2|松定プレシジョン
Mennekes, Type 2
GB/T|松定プレシジョン
GB/T

急速充電(直流充電)

急速充電は直流充電ともよばれます。急速充電器スタンドでは交流のAC200VやAC400Vを直流に変換して、自動車にDC400VやDC500Vを供給します。

日本では急速充電に適合するコネクターは、CHAdeMO規格で定義されています。

急速充電には、三相のAC200VやAC400Vが必要なので、業務用の電源やキュービクルの設置が必要になるケースが多いです。それらの工事費用に加え、充電器自体も数百万円かかるため、一般家庭などに設置するのはなかなか難しいでしょう。一方で長くても30分程度で満充電できるため、高速道路のSAや商業施設などのパブリックエリアでの設置に適しています。

日本 アメリカ ヨーロッパ・他の地域 中国
形状 CHAdeMO|松定プレシジョン
CHAdeMO
CCS1|松定プレシジョン
CCS1
Tesla|松定プレシジョン
Tesla
CCS2|松定プレシジョン
CCS2
GB/T|松定プレシジョン
GB/T

電気自動車の構成

電気自動車は、駆動系や制御系など、さまざまな系統が複雑に搭載されています。電気自動車と通常の自動車には共通する系統も多くあります。しかし特に充電システムは、電気自動車だけが持つ独特の系統です。
この章では、電気自動車の充電システムの構成について解説します。

概要

電気自動車の充電システムを構成する要素は、主に次の5つです。

電気自動車の構成|松定プレシジョン

バッテリ

電気自動車用バッテリの特長

電気自動車にとってバッテリは、自動車を動かすエネルギーを貯蔵しておくものです。ガソリン車にとっての燃料タンクのようなものです。また電気自動車用バッテリは、自動車の減速時などに発生する回生エネルギーを貯蔵する役割も担っています。
電気自動車のバッテリには主にリチウムイオン電池が使用されます。リチウムイオン電池の構成としては、電極にニッケルやマンガン、コバルトなどを使った三元系(NMC)が主流です。しかし特にコバルトが高価なためリン酸鉄(LFP)のリチウムイオン電池への関心も高まっています。リン酸鉄(LFP)は安全性が高く比較的安価ではあるものの、低温時にバッテリ性能が低下しやすいのがデメリットです。

電気自動車用のバッテリは、比較的容量が大きいのが特徴で、2025年の段階では40〜60kWh程度が一般的です。しかし大きいものでは100kWhを超えるものもあります。また、環境保護への関心の高まりなどを受け、電気自動車の需要や活用範囲も広がっていることから、バッテリ容量は増加傾向にあり、今後さらに大きな容量のバッテリを使用する電気自動車も出てくるでしょう。

電気自動車に使用されるリチウムイオン電池には、形状による区別もあります。主には円筒型、パウチ型、角形などが使用されます。自動車メーカーや系列などによって使い分けされています。電気自動車用のバッテリにはBMS(バッテリマネージメントシステム)とよばれる回路がついています。BMSでは、バッテリの状態を監視し、充電/放電の制御や保護などを行い、寿命や安全性を向上させています。

電気自動車用バッテリの評価方法

電気自動車用バッテリの特徴の一つに、使用環境が過酷な点が挙げられます。自動車は外を走行し、さまざまな国で使用されるため、使用想定温度は-40℃から+80℃にも及びます。

バッテリの試験では、特定の温度環境下における充放電の繰り返しや、インピーダンスの評価、短絡試験、高圧、低圧試験のような電気的評価が行われます。これらの評価では高電圧を提供できる電源装置や、インピーダンスの測定装置が必要になります。またその際には、交流、直流安定化電源や高圧電源などの電源装置を使用します。
また自動車の使用環境を考慮し、落下試験、振動試験、圧壊試験、釘さし試験のような物理的な評価も欠かせません。

OBC

OBCとは

OBCとはオンボードチャージャー(ON-BOARD CHARGER)のことで、普通充電でバッテリを充電する際に使用します。急速充電では使用されません。

バッテリに貯蔵できる電気は直流です。そのため普通充電を行う際には、充電スタンドから送られてきた交流を電気自動車の内部で直流に変換する必要があります。OBCはこのとき、交流を直流に変換し、バッテリ充電に適した電圧に変換する役割を担います。つまりOBCはAC-DCコンバータなのです。
高出力の普通充電器は、6kW(AC200Vx30A)です。しかしOBCの変換能力(充電能力)が3kWまでであれば、普通充電器の出力も3kW(AC200Vx15A)に制限されてしまい、充電に時間がかかるようになります。

OBCの構成

OBCは大まかに次の要素から構成されています。

  • ノイズフィルタ(入力)
  • 整流回路(AC/DC変換)
  • 電圧変換回路
  • ノイズフィルタ(出力)

入力側のノイズフィルタは、コンセントなどの電源から送られてくる電気に含まれるノイズを除去するものです。整流回路では交流を直流に変換し、さらに電圧変換回路で充電に適した電圧に変換します。その後、変換回路内で発生したノイズを除去するため、出力側のノイズフィルタを通して、バッテリに電気が送られます。

OBCの評価

OBCの評価は主に、入力側(AC側)と出力側(DC側)の2種類に分類されます。

入力側の評価では、充電の際に発生する電圧不足、電圧ひずみ、瞬断や瞬低、電圧変動などを再現しながらの充電を行ったり、OBCには厳しい位相条件での入力を行ったりします。
これらの評価には交流電源や大容量のバイポーラ電源などが使用されます。
出力側の評価ではエージング試験や過渡的な特性の測定などが行われます。これらの評価ではバッテリシミュレータや回生型直流電源(回生電子負荷)などの機器を使用します。

インバータ

電気自動車用インバータの特長

インバータとは、直流の電力を交流に変換する装置です。
汎用インバータでは交流の電力を内部で一旦直流に変換し、電圧を変えて再び交流に変換して出力する装置を指す場合もあります。このようなケースではインバータの中にインバータとコンバータが構成されており、装置全体を差してインバータとよんでいます。

一方、電気自動車用のインバータは、直流の電力を交流に変換させるのが役割です。
電気自動車を駆動させるモータは、高出力が求められるためブラシレスモータが使用されます。そのため交流の電力が必要になります。しかしバッテリから供給される電気は直流であるため、バッテリからの電力を交流に変えなければいけません。そのためインバータを使用し、モータに送る電力を交流に変換させています。また電気自動車は減速時の電力を回生するために双方向インバータが使われます。これも含めてインバータとよばれる場合もあります。

電気自動車用インバータに求められる特徴は、高電力、高耐熱、小型化などです。電気自動車の需要や活用範囲が広がっているため、求められるバッテリの容量やモータの出力もより大きくなっています。それにともないインバータも高電力化が求められています。また自動車ならではの過酷な使用環境に耐えるための高耐熱や、自動車の航続距離を向上させるための小型化や軽量化も欠かせません。

インバータの構成

インバータは、電圧変換回路によって構成されています。
電気自動車用インバータでは、基本的にスイッチング回路によって電圧が変換されています。スイッチング回路とは、スイッチング素子によって回路を高速でON/OFFする、電力変換効率の高い回路です。スイッチング素子には主にFET(電界効果トランジスタ)などが使用されます。

インバータの評価方法

インバータの評価では、スイッチングによる電力損失の測定やサージ測定、動作評価などが行われます。高電力化が求められているインバータにおいては損失は課題のひとつです。そのためターンON/OFF区間の 電圧と電流の積などの定数を用いて評価を行います。この評価では高分解能オシロスコープなどの機器が必要です。またサージ測定は、周辺回路の配線インダクタンスの影響によって発生するサージに対しインバータがどのように反応し、接続先の機器を保護するかを評価するものです。サージ評価では、高分解能オシロスコープの他に、高圧電源などの機器を使用します。

DC/DCコンバータ

DC/DCコンバータとは

コンバータとは、交流を直流に変換するために用いられる回路のことです。しかし電気自動車におけるコンバータ(DC/DCコンバータ)は、自動車のバッテリから送られてくる直流の電力の電圧を変換し、直流で出力する装置を意味します。

電気自動車において最も電力を必要とするのは、自動車を駆動させるモータです。そのため、モータの電圧に合せたり、効率を上げたりするために、電気自動車のバッテリからの出力は、高電圧になっています。
しかし電気自動車を動かすためには、モータ以外のさまざまな場所でも電力が必要になります。たとえばカーエアコンやパワーウィンドウといった機器の動力の他、自動車の制御ユニットを動作させるための電力も必要です。これらの機器はメインのモータとは異なり、それほど多くの電力を消費しません。そのためバッテリから送られてくる高電圧をDC/DCコンバータを用いて低電圧に変換し、それらの機器で使用しているのです。

DC/DCコンバータの評価方法

電気自動車用DC/DCコンバータの評価は、DC/DCコンバータに対し、高電圧の直流電源装置と大容量の電子負荷装置や回生型直流電源装置、バイポーラ電源を接続して行います。高電圧の直流電源装置はバッテリの出力を模し、さまざまな条件での出力を行います。また大容量電子負荷装置は、エアコンやパワーウィンドウ、各種制御ユニットの負荷を模し、それぞれの機器が複雑に動作する様子も模します。これにより膨大なパターンを再現し、それぞれの条件下での挙動を確認します。

モータ

電気自動車用モータの特長

電気自動車用のモータにはACモータが使われます。
電気自動車で使われるACモータは主に次の4種類です。

  • 永久磁石型同期モータ(PM:Permanent Magnet Synchronous Motor)
  • 巻線界磁型同期モータ(EESM:Electrically Excited Synchronous Motor)
  • スイッチトリラクタンスモーター(SRM:Switched Reluctance Motor)
  • 誘導モータ(IM:Induction Motor)

PMは、回転子に永久磁石を用いたモータでDCブラシレスモータともよばれます。PMは回転子表面に永久磁石があるSPMと回転子の内部に永久磁石があるIPMの2種類に分類されます。電気自動車用モータには、高性能ネオジム磁石を使用したIPMモータが多く使われています。PMは高効率で長寿命なのが特徴です。

EESMは巻線に電流を流すことで磁力を発生させるモータです。巻線の銅損のため、効率に課題が残っています。

SRMは、回転子に強磁性の鉄芯を用いたモータです。構造や回路がシンプルなのが特徴で、比較的安価で信頼性が高いのがメリットです。しかし効率や騒音などに課題を残します。

IMは非同期モータで三相交流を利用するモータです。磁石を使用しないため、レアアースやレアメタルを必要とせず、世界情勢による調達の影響を受けにくい点が注目されています。一方で銅損があり、効率に課題を残しています

電気自動車用モータの評価方法

電気自動車用モータの評価では、評価ベンチ(ダイナモ)を用いて実路走行時の負荷を模擬した評価を行います。このとき、出力回転数やトルク、油圧や振動、音などの評価が行われます。また磁気損失や回転周期ごとの電力評価なども行われます。

これらの評価を行うためには、モータを動かすための交流電源が必要です。バッテリの状態や走行状態などさまざまな条件を模した出力を行える、高電圧の交流電源を使用します。

イーアクスル(eAxle)

イーアクスルとは、モータとインバータ、ギア(減速機)を一体にしたものです。従来の自動車にたとえるならば、エンジンとトランスミッションを一体化したものに相当します。3つの構成要素をパッケージ化したことで、従来に比べ小型軽量化できるのが特徴です。

イーアクスルの評価では、モータとインバータ、ギアを同時に評価することになります。そのためモータの評価と同じように評価ベンチ(ダイナモ)に乗せて評価を行います。モータの評価と同様に出力回転数やトルク、油圧や振動、音などの評価が行われます。
しかしモータの評価とは異なり、インバータが一体型になっているため、電源には交流電源ではなく直流のバッテリーシミュレータを使用します。

松定プレシジョンの回生型直流電源(双方向電源)

電気自動車に使われるバッテリやOBC、インバータ、コンバータの開発や製造ラインでの検査には松定プレシジョンの回生電源が活用できます。
松定プレシジョンの回生電源(PBR/PBRMシリーズ)をご紹介します。

主な用途

松定プレシジョンの電力回生型双方向直流電源は、電源装置だけでなく電力回生型電子負荷としても使えるのが特徴の双方向電源です。
AC/DCコンバータ評価や大容量バッテリの充電/放電試験、インバータやモータの評価、OBCの評価、さらに大容量のバッテリーシミュレータとしても使用できます。

省スペース

松定プレシジョンのPBR/PBRMシリーズは、直流電源と電子負荷をそれぞれ用意する必要が無いので直流電源と電子負荷をそれぞれ用意する必要が無いので圧倒的にコンパクトなのが特徴で、さらに従来品に比べると1/3ほどの省スペースで設置可能です。これにより他の計測機器なども置けるようになり、空間を有効活用できます。

豊富なラインアップ

松定プレシジョンのPBR/PBRMシリーズは、5kW~150kWまで60を超える豊富なラインナップをご用意しています。用途や仕様に応じ、最適なモデルをお選び頂けます。

松定プレシジョンのPBR/PBRMシリーズは、5kW~150kWまで60を超える豊富なラインナップをご用意しています|松定プレシジョン