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技術コラム

バイポーラ電源とは、プラスとマイナス(ポジティブとネガティブ)の両方の極性を出力できる電源のことです。この記事では、プラスとマイナス、それぞれでソース(電源)とシンク(負荷)動作が可能な4象限電源としてのバイポーラ電源について解説し、近年増加傾向にある電装品のテストについても使用例を交え解説します。
バイポーラ電源について知識を身につけたい方から実務で活用したい方まで、ぜひ最後までお読みください。

バイポーラ電源の基礎

バイポーラ電源とは

一般に、電気は電力会社から供給され、コンセントに機器を接続して使用します。しかし電力会社から供給される電気は、50Hzまたは60Hzの交流で、電圧も100Vや200Vと決められています。さらに、瞬間的な電圧の低下などのノイズも含まれています。
そのためさまざまな電子機器を稼働させたり、電子機器の評価を行うためには、ノイズがない安定した電気や、さまざまな電圧の直流が必要になります。そのような場合に使用されるのが電源装置です。
バイポーラ電源とは電源装置の一種で、バイポーラアンプや電力増幅器ともいわれます。直流電源、交流電源の両方としても使えるだけでなく、電子負荷としても使用できるのが特徴です。すべての電源機器の機能を網羅した、オールマイティな電源装置なのです。
またバイポーラ電源は、どのような電流と電圧の向きにも対応でき、4象限すべての動作が可能なのが特徴です。

バイポーラ電源のメリットとデメリットは以下のとおりです。

  • メリット:高速な動作が可能。そのため、さまざまな電源変動試験に用いられます
  • デメリット:高価。他の電源装置に比べて高価なため、使用する機能に対し、注意深く検討する必要があります

基本構造

バイポーラ電源は、正電圧と負電圧の両方を生成できます。そのため内部に、正側と負側の、2つの異なる電源系統を持っているのが最大の特徴です。
バイポーラ電源の基本構造は、大まかに出力回路、保護回路、冷却機構の3つの部位に分かれています。

出力回路

出力回路とは、電源として供給する電気を作り、送り出す部位です。
出力回路では、コンセントなどから得た電気を、直流に変えたり、特定の周波数や電圧に変えたりします。また電力会社から供給される電気に含まれるノイズを除いたり、接続された機器の挙動による電流の変動を抑えるなど、安定した電気が供給できるように整えたりします。
一般的にバイポーラ電源の出力回路は、リニアまたはスイッチング方式のレギュレーターが使用されています。

保護回路

バイポーラ電源は、過電圧、過電流、短絡などに対する保護回路を搭載しています。
バイポーラ電源は、高圧の電気や、大電流を供給することもありますし、さまざまな電子機器の評価に使われることもあるため、電源の接続先が予想外の挙動を示す可能性もあります。そのような場合に、接続先の機器を破壊したり、火災を引き起こしたりしないために、保護回路が必要なのです。

冷却機構

出力回路で、電圧を変えたり、交流の周波数を変えたりする際には、熱が発生します。電源装置が加熱しすぎると、装置自体を痛めてしまったり、安全に使用できなくなるなどの問題につながります。そのため、発生した熱を逃がすために、ファンによる強制冷却やヒートシンクによる放熱が行われます。このような冷却機構は、バイポーラ電源には欠かせません。

電圧生成方法

バイポーラ電源では、任意の電圧を生成するためにリニアレギュレーターまたはスイッチングレギュレーターが使用されています。

リニア電源方式

リニア電源方式とは、内部のトランジスタで電圧を減圧降圧する方式です。降圧動作のみが可能で、入力電圧より低い出力電圧を作ります。昇圧や反転はできません。
スイッチング電源方式に比べて発熱が大きく、効率が低いのがデメリットです。一方で安定性が高く、ノイズが少ないため、高い精度が求められる試験などに適しています。
また、機器自体のコストもスイッチング方式に比べると低めで、コストパフォーマンスに優れるのが特徴です。

スイッチング電源方式

スイッチング電源方式とは、トランジスタの高速スイッチングによって電圧を調整する方式です。リニア電源方式と異なり、降圧動作だけでなく、昇圧や反転もできます。そのため、100Vや200Vよりも高い電圧が必要な場合には、スイッチング電源方式のバイポーラ電源を選ぶ必要があります。
スイッチング電源方式は、リニア電源方式に比べて効率が良く、高出力に向いています。そのためバイポーラ電源の多くはスイッチング電源方式が採用されています。
しかし一方で、スイッチングによりノイズが発生しやすい傾向があります。

2象限および4象限の動作

電源機器の出力は、電圧と電流の向き(+/-)によって、4つの象限に分類されます。
一般的な直流電源装置はユニポーラ電源といわれ、4つの象限のうち、第1象限(電流も電圧も+方向)と、第3象限(電流も電圧も-)にしか対応していません。
しかし、バイポーラ電源は4象限すべての動作ができます。そのため第2象限や、第4象限の動作も可能になり、下記のような2象限動作や4象限動作も可能です。

2象限動作

バイポーラ電源では、電流の向きは一方向で、電流を負荷に供給しつつ、出力電圧を正負に変換することで第1象限と第4象限の2象限にまたがった動作が行えます。このような動作を2象限動作といいます。
2象限動作は、通常のプラスとマイナスの電圧供給が必要な用途向けです。

4象限動作

バイポーラ電源は、出力電圧と出力電流の両方の向きを制御できるのが特徴です。そのため、一般的な電源装置とは逆に、電流が負荷から供給されてくる方向に電流を流すことも可能です。この場合、第1象限から第4象限の全てを使った4象限動作になります。
4象限動作は、モータの逆回転やエネルギーの回生のように、負荷から電源にエネルギーが返送されるケースなどの評価に使われます。2象限動作に比べ、より高度な制御が必要な用途向けの動作です。

バイポーラ電源の種類

バイポーラ電源にはいくつかの種類があります。そのうち主なものを4つ、下記で紹介します。

信号源を内蔵したバイポーラ電源

バイポーラ電源の用途として、超音波モータの駆動やディスプレイの試験など、高速、高レベルの信号が求められる場面があります。そのような用途に適応できるよう、各種波形を出力できる信号源を内蔵したバイポーラ電源があります。このような電源ならば、試験用信号源を接続しなくても、バイポーラ電源だけでさまざまな評価が行えます。

外部からの信号を増幅するバイポーラアンプ

入力された電圧を増幅して出力できるバイポーラアンプです。たとえば±10Vの電圧が入力された場合、これを±10kVの電圧にして出力します。そのためリニア方式のバイポーラ電源では、バイポーラアンプとしては使えません。バイポーラアンプは全てスイッチング電源方式を採用したものになります。

外部信号を高速に高電圧で出力する高電圧アンプ

高電圧の信号を出力する場合、スルーレートが高くないと高速応答できません。スルーレートとは単位時間当たりの電圧変化量です。そのため、高電圧の信号のように電圧の変動が大きい場合、スルーレートが低いと、出力波形にダレが出てしまい、高速応答ができなくなってしまいます。バイポーラ電源には、高電圧の信号に対し、応答性をよくするための高電圧アンプモジュールがあります。

ピエゾドライバや静電チャック用電源

ピエゾドライバや静電チャックに使われる電源も、バイポーラ電源の一種です。複雑な信号に対し高速で応答できる点などが、このような電源として適しています。

バイポーラ電源の用途例

バイポーラ電源は、製品の評価や、装置の電源としてさまざまな用途で使われます。代表的なものをいくつか紹介します。

バッテリで駆動される機器の評価

バッテリで駆動される機器を評価する際には、バッテリから出力される電気を再現できる装置が必要です。バイポーラ電源を用いることで、出力時間に従って、電圧が下降する様子を再現するなど、様々な挙動が再現できます。

コイル・トランスの評価

コイルやトランスに入力される、さまざまな電気信号を再現する際にも、バイポーラ電源が使用されます。

キャパシタなどの容量性負荷

キャパシタ(コンデンサ)の容量性負荷試験にもバイポーラ電源が使用されます。周波数や電圧によって静電容量が変化するものもあるため、バイポーラ電源によって、さまざまな周波数や電圧での試験が行われます。

太陽電池関連機器の評価試験

近年の環境負荷低減にむけた、さまざまな取り組みにより、太陽電池の需要が拡大しています。太陽電池関連機器では、高電圧の試験が多く行われます。これらの評価にもバイポーラ電源が使用されます。

各種モータの試験

モータは、大きなものから小さなものまで、さまざまな種類があります。モータにさまざまな電圧や電流を付加したり、モータが逆回転した際に発生する電流の評価などにバイポーラ電源を使います。

表面処理

高周波焼入れなど、高圧の交流電流が必要な表面処理にもバイポーラ電源が使用されます。

車載電装品テスト

近年、バイポーラ電源の用途として特に増えているのが、車載電装品の評価です。EVの普及だけでなく、さまざまな安全装置の搭載により、車載の電子部品は増加しています。限られた空間の中に、さまざまな電装部品が存在するため、電源パターンが多数存在するようになり、電源の変動パターンが非常に複雑になりました。さらに車載電装品には、安全のためさまざまな規格が適用されており、複雑な電源パターンの中で、これらを評価する必要があります。そのためバイポーラ電源が必要なのです。いろいろと規格がありますが、自動車メーカーは、独自の基準を設け車載電装品のサプライヤに試験や適合品の供給を求めています。

規格

車載電装品に適用される規格には次のようなものがあります。

ISO16750-2 車載機器の電気的負荷試験 道路を走る車両に対する、電気および電子機器の環境条件と試験
ISO7637 電源線上の過渡妨害のエミッション 道路を走る車両に対する、電気的妨害についての試験
ISO10605 静電気試験 静電気放電試験
AEC-Q100/Q200 車載用電子部品における信頼性試験 集積回路/受動部品 自動車業界の電子部品に特化した信頼性テストの規格
ISO 26262 自動車に搭載するE/Eシステムの機能安全規格 自動車に対する機能安全の規格
UN/ECE R10 車両等の相互承認に関する国際的な協定 車両の電磁両立性(EMC)についての規格
SAE J1113シリーズ
ISO 11452シリーズ
車載用機器のEMS試験 車載機器の電磁両立性(EMC)についての規格
LV124 車載用機器のEMS試験 ドイツの主要自動車メーカーが策定した車載電装品に関する試験規格
3.5tまでの自動車に使用される12Vの電気・電子部品の試験
LV148 車載用機器のEMS試験 ドイツの主要自動車メーカーが策定した車載電装品に関する試験規格
自動車に使用される48Vの電気・電子部品の試験
LV123 車載用機器のEMS試験 自動車の高電圧コンポーネントの安全性と電気的パラメータの試験規格

テスト項目

上記の規格では、高速電圧変動試験、電圧リップル試験などが含まれています。他にも負荷の遮断と電圧の制限、オフセット電圧試験などもあります。このような試験や、大きなリアクタンス負荷になる電装品に対する試験は、一般的な電源装置では対応しにくいため、バイポーラ電源を使用すると柔軟な対応が可能です。

バイポーラ電源を使用したテスト例

自動車に搭載される車載マルチインフォメーションディスプレイは、バッテリなどの電源によって稼働します。しかし前述のように、同じ電源には多数の電装部品が接続され、それぞれが複雑に稼働しているため、電源から送られてくる電気は複雑に変動してしまいます。そのような中でも、正常に稼働するかどうかや、他の機器に電気的な影響を与えないことを確認するため、バイポーラ電源を使ったテストが行われます。
試験システムの構成例は、下記のようになります。

バイポーラ電源を使用したテスト例|松定プレシジョン

バイポーラ電源の選定ポイント

バイポーラ電源には、さまざまあります。用途に適した電源を選ぶためには、下記のようなポイントを確認します。

電圧・電流の出力範囲

バイポーラ電源選定において重要になるのが、電圧や電流の出力範囲です。
たとえば松定プレシジョンのランナップにおいては、出力電圧の範囲が±20~60Vのものもあれば、±0.5~1kVと非常に幅広いものもあります。用途や目的に合った電源の選定が必要です。

応答速度

高電圧での信号のように、高い応答速度が求められる用途もあれば、バッテリーの経時変化の再現試験のように高い応答性は求められない用途もあります。
たとえば松定プレシジョンのランナップでは、応答速度DC~10kHzのものから、DC~1000kHzのものまであります。

熱対策

出力電圧や負荷によっては、電源装置が加熱しやすい用途もあります。そのような場合には、熱対策が厳重にとられているバイポーラ電源を選択する必要があります。

松定プレシジョンのバイポーラ電源の使い方紹介

松定プレシジョンのバイポーラ電源には、次のような使い方があります。

バイポーラ電源(信号発生器)内蔵タイプ

信号発生器内蔵タイプは、バッテリで駆動される機器などの評価試験に模擬バッテリとして使用したり、コイル・トランスなどの誘導性負荷として使用できます。

バイポーラ電源(信号発生器)内蔵タイプ|松定プレシジョン

バイポーラ電源 外部信号入力タイプ

外部信号入力タイプはキャパシタなどの容量性負荷や、パワーコンディショナとして使用できます。

バイポーラ電源 外部信号入力タイプ|松定プレシジョン

外部信号源(ファンクションジェネレータ)

ファンクションジェネレータは外部信号入力タイプのバイポーラ電源に接続し、任意の信号を発生させるために使用します。

バイポーラ電源 外部信号入力タイプ|松定プレシジョン