直流スイッチング電源装置や太陽光発電装置、燃料電池装置などの性能試験の際に、電源の質を確認する必要があります。
電源の質と一言にいっても、様々なファクターがあり、電子負荷にも様々な機能や性能が求められています。
電源装置の性能試験などに用いられる電子負荷装置は、正しく理解をすることで間違いのない性能確認を行うことができるようになります。
電子負荷装置の基礎的な原理や種類、使い方を紹介します。
電子負荷とは
電子負荷は直流電源装置の性能試験でよく用いられます。しかし、非常に専門的で、基本的なことを知らないとその先の種類や用途に進むことができません。
まずは電子負荷装置の基本と、電子負荷が重要な主な理由について解説します。
電子負荷の基本
電子負荷の主な構成は、トランジスタやFETなどの電子機器です。
電気回路の負荷といえば、抵抗負荷やLC負荷といった交流負荷などを思い浮かべる方も多いかと思いますが、電子負荷は同じ負荷としての動作を電子回路で代替する形で実現します。
トランジスタやFETによる負荷となりますので、高速でオンオフを行ったり、抵抗値をリニアに断続的に変更したりといった通常の抵抗負荷やLC負荷では行えないような動作を装置のディスプレイ上の設定で実現することが可能となります。
電子負荷が重要な理由
直流電源装置の性能試験には、様々なパターンの負荷を接続し、負荷応答性を確認するために負荷抵抗が変動しても定電圧が維持できるのか、といった試験などがあります。
これらの試験を実現するために、抵抗負荷やLCR負荷などで行うと、抵抗値を容易に変更できない場合もあります。
また、小さな抵抗値から無限大に近い抵抗値まで一定時間で変更するといった動作など直流電源装置の試験には、抵抗負荷では対応できないようなものも多く含まれています。
電子負荷で性能試験を実施するメリットとしては、抵抗負荷やLCR負荷といった実負荷では実現が難しい状況での試験を行ったり、LCR負荷では試験ごとに容量を変えるために負荷を入れ替える、といった配線変更が必要ですが、一連の試験を電子負荷一台で実現することができる、といったものがあげられます。
近年、直流電源装置はデータセンターのHVDC(高圧直流給電)や、太陽光発電設備の普及、パソコンやスマートフォンなどのバッテリなどに至るまで、社会の根幹をなすような状態にまで普及するようになってきました。
そのため、直流電源装置の性能試験は、その性能を担保するものとして、今まで以上に重要な位置づけとなりつつあります。
電子負荷の種類と原理
電子負荷には、性能試験ごとに用いられる様々な基本モードがあります。
これらの動作はトランジスタやFETを電子制御することで柔軟に抵抗値の変動を行える負荷として働くことで実現できます。
それぞれのモードと動作原理について説明します。
電力消費型と電力回生型
電子負荷には試験で消費した電力の扱いの違いで二種類に分類されます。
一つ目は通常の負荷と同様に、電子回路に入った電力が熱として放熱される電力消費型です。エネルギーの動きとしては電子制御されているという違いがあるだけで、通常の負荷と同様です。電力は試験用に消費されてしまっているので環境面への負荷がかかります。
二つ目は電子負荷で試験を行った電力が、電子負荷装置内の回生回路を通じて電源側に返される電力回生型です。
電子負荷に電力が供給されて、電源側に戻って循環するため、エネルギー消費としては損失分が消費されるのみの形となります。
定電流(CC)モード
定電流モードは負荷の電流設定に対して、電子負荷の入力電圧が変わっていっても、設定された負荷電流を流し続けるモードです。
入力電圧が変われば、通常の負荷抵抗であれば電流も変動してしまいますが、電子負荷の定電流モードでは、内部の抵抗値を自動調整することで負荷電流が一定になるように制御されます。
最大電流を幅広い電圧範囲で流すことが求められる直流スイッチング電源装置の性能試験などに用いられます。
定電圧(CV)モード
定電圧モードは電子負荷の電圧設定に対して、電子負荷の入力電圧が設定電圧となるように電流を制御します。
電圧設定値に対して、入力電圧が大きい場合は電流を流すことで電圧を下げ、入力電圧が小さい場合は電流を減少させることで電圧を上げるよう制御します。
負荷電流が変われば、通常の抵抗負荷であれば電圧変動が起きてしまいますが、現在流れている負荷電流と入力電圧から、入力電圧が設定値になるように抵抗値が自動で調整されます。
これは、電子部品のチェナダイオードと同様の動作となりますが、電子負荷では数十ワットから数キロワットまでの電力を幅広く取り扱うことができます。
モータでは減速の際に入力よりも大きな電圧がモータ内部から発生することがあります。
入力を超える電圧は電子負荷で消費することにより、制御回路の破損を防ぐという目的で用いることができます。
また、負荷変動に対しても安定した出力電圧が求められるバッテリ充電器などの性能試験にも用いられます。
定電力(CP)モード
定電力モードでは、消費電力が一定になるように電子負荷の電流量を制御するモードです。
具体的には、電子負荷の入力電圧と入力電流の積を計算し、電力設定値と比較して大きい場合は電流を減らし、小さい場合は電流を増やすことで、一定の電力が消費されるように制御を行います。通常の抵抗だけではこのモードを実現するのは困難です。
CCモードやCVモードと比較すると複合的な制御となります。
電源装置や電池の発熱時の電力特性や電源装置の電力変換効率を試験によって測定するような場合に用いられるモードです。
定抵抗(CR)モード
定抵抗モードは、入力に対して一定の抵抗値を電子負荷で実現するモードです。
一見すると、通常の抵抗負荷と同様の動作を行っているモードですが、抵抗負荷は導体部分に電流が流れると、発熱などの温度変化などがあり、抵抗値が変わります。そうした抵抗値の変化は、性能試験時には誤差として影響を受けてしまいます。
電子負荷を用いることで理想的な純抵抗を接続した回路としてみることができます。
CC+CVモード
定電圧設定と定電流設定を行い、テストを行うモードです。
定電流の設定値までは定電圧動作で動作し、電流が設定値となった場合、定電流モードに自動で移行するモードです。
CR+CVモード
定抵抗設定と定電圧設定を行い、テストを行うモードです。
定電圧の設定を行い、設定電圧が電源電圧以下であれば、定電圧動作を行います。
電流値が一定以上となった場合、定抵抗動作に自動的に切り替わります。
CP+CVモード
定電力設定と定電圧設定を行い、テストを行うモードです。
定電圧の設定と定電力の設定を行い、自動で切り替えを行い、任意の点で定電圧、定電力のモード切替を行い、複合的な操作を行うモードです。
マルチモード
マルチモード搭載電子負荷装置は、上記4モードを切り替えて様々な試験に対応することができる電子負荷装置のことをいいます。
マルチモード搭載型の電子負荷装置はマイコン搭載の高性能型で、4モードが必要なそれぞれの性能試験に対応が可能です。
VIモード
VIモードでは、入力電圧に対してどの程度の電流を流せるかを各電圧で任意に設定できます。
照明に用いられる発光ダイオードの様に入力電圧と電流が非線形な特性を持つ素子は、電子負荷のVIモードを用いることで模擬することができ、非線形な特性を持つ負荷を対象とした電源の性能試験の簡素化が可能です。
ショートモード
電子負荷の抵抗値が限りなく0に近い短絡状態となるモードです。短絡状態といっても、最小抵抗が接続されている状態となっているので、安全面には配慮されています。
電源の短絡試験などに用いられるモードです。
電子負荷の用途
電子負荷のモードと特性がわかったところで、具体的にどのような試験に電子負荷装置が用いられているのでしょうか?
電源負荷変動試験
電源装置に接続される負荷が変動しても、電源電圧、電流の変動が一定の範囲以内という性能を確認するための試験として、電源負荷変動試験があります。
電源装置の安定的な出力がされていることを確認するために、製品仕様の範囲内の負荷を接続して使用通りの電源電圧、電流が出力されているのかを確認します。
車載用DCモータなど、急激な負荷変動に正確に対応ができるのかを模擬的に確認する評価試験などに用いられます。
二次電池の放電試験
二次電池の放電特性を試験するために、定電流モードで電子負荷装置に接続し、二次電池の出力電圧特性を調べる試験です。
通常の定電流モードの他、電子負荷装置のプログラム制御により、パルス電流負荷による放電試験も行うことがあります。
車載用ECUの模擬負荷
車載用ECUは、自動車の自動運転システムなどに用いられる自動車のCPUです。
ECUはプログラミングがされた後、性能試験を行うのですが、実際に自動車に搭載される前に、自動運転で行われる模擬的な状態をECUに接続される抵抗値の変化で検知を行う模擬試験を実施します。
その際に、誤差のない純抵抗として動作する定抵抗モードによる正確な性能確認が行われます。
燃料電池の評価試験
燃料電池の負荷応答性を確認するための評価試験にも、様々な抵抗値を設定できる電子負荷装置が用いられます。
電流、電圧、電力、抵抗など試験を行いたい指標の設定を行い、出力の特性を簡単に試験することが可能なのが電子負荷装置のメリットです。
電子負荷の設定と具体的な使い方
電子負荷の基本的なパラメータの設定方法と、実際の使用時の設定例を紹介します。
電子負荷の基本的な設定方法
電子負荷装置の基本的な設定方法は以下の4点があります。
電流値の設定
電子負荷が定電流モードの場合、電流値を設定することで動作します。
電流値が一定となるように電圧が変化するような動きをします。
電圧値の設定
電子負荷が定電圧モードの場合、電圧値の設定を行います。
負荷電流が変動しても、電圧が一定の状態が保たれるよう電子負荷内部で制御されます。
電力の設定
電子負荷が定電力モードの場合、電力値の設定を行います。
電力が一定となるように、電圧、電流が変化するため、数値を決定するパラメータが2つ存在するモードとなります。
抵抗値の設定
電子負荷が定抵抗モードの場合、抵抗値の設定を行います。
電子負荷に入力する電圧が変化しても、抵抗値が一定となるように、電子負荷内部で電流を制御するような形で抵抗値を一定にします。
受動的な素子である抵抗と比較して、より能動的に抵抗値が設定値となるように電圧に基づいて必要な回路電流を算出し、抵抗値一定となるよう制御します。
実際の使用シーンでの設定例
これらのモードの設定値の設定が以下のようなテストに用いられています。
バッテリーのテスト - 定電流(CC)モード
バッテリーは、指定の出力電流を指定の時間出力しつづける仕様を守る必要があります。
例えば、5000mAhのモバイルバッテリーの場合、5000mAの電流を1時間出力する仕様となります。
そのためのテストに電子負荷装置の定電流モードが使用されます。
電流値の設定(5000mA)を行い、一定時間(1時間)電子負荷にバッテリーの放電電流を流し続けます。
その間にバッテリーの放電電圧がドロップしてきますが、定電流モードのため、電流値は変わりません。規定の放電電圧以下となった際の時間が、設計時間以上であれば性能を満たしているということになります。
電源の過渡応答のテスト
直流電源装置の電圧調整機能がありますが、急激な負荷変動にも安定した電圧を継続して出力する必要があります。
これらの過渡応答の性能を確認する試験に、電子負荷装置の定電流モードまたは定抵抗モードが用いられます。
定電流モードであれば、電流値がパルス周期で二段階に増減を繰り返すシーケンスを組み、負荷電流が増減を繰り返した際の直流電源装置の出力電圧の状態を確認します。
これは抵抗値の増減を行った場合でも同様の結果を得られます。
負荷の増減によって、瞬間的に出力電圧は変動しますが、電圧変動幅や電圧調整機能によって、元の電圧に維持されるまでの時間が規定値以内か、といった性能を確認します。
電源の電流制限能力のテスト
電源に接続される負荷が減少すると、電圧が一定となっている場合、電流値が過大に上昇します。場合によっては短絡状態となってしまうため、電源装置には電流制限機能が備わっています。
定抵抗モードで、抵抗値を徐々に減らしていった場合、一定以上の電流が出力されない電流制限機能がきちんと動作するかを確認する性能試験が行われています。
DC-DCコンバータのテスト
DC-DCコンバータは電圧を安定的に変換する必要があります。また、変換ロスを少なくする方がより効率の良いコンバータとして活用ができます。
DC-DCコンバータに電子負荷を接続し、定電力モードで出力電力が一定となるよう運転します。その際の、入力電圧と電流を測定し、電力を変更していった際の入力電圧と電流を測定し、入力電力を算出します。入力電力に対する出力電力から、出力電力が変化していった際の電力変換効率が得られます。
このように、電池や電源装置の性能試験に、電子負荷装置は欠かすこのできないものとなっています。
松定プレシジョンの電子負荷
松定プレジションでは、様々な用途に対応できる電子負荷装置を取り揃えております。
年々、直流電源の重要性が増している現在、その性能を確認することができる電子負荷装置の位置づけもより重要なものとなっています。
ハイパワー直流電子負荷(EWシリーズ)
最大DC150V、480A まで対応可能なハイパワー電子負荷装置です。
別売りのブースターを用いれば最大5台まで並列接続が可能で、12kWまでの負荷として使用することができるハイパワーモデルです。
小型直流電子負荷(EGSシリーズ)
最大DC60V、10Aまで対応が可能な小型直流電子負荷装置です。
小型な分軽量タイプで、現場使用が多い性能試験などの際に、持ち運びに便利です。車載用計装設備の性能確認用電子負荷として用いられることが多いモデルとなります。
卓上型直流電子負荷(EGシリーズ)
最大DC150V、60Aまで対応可能な卓上モデルです。
制御モードは定電流モードと定抵抗モードの2モードのみの利用となります。USBやLANな通信インターフェースにも対応し、別売りのアダプタを使用すれば19インチラックへ5台収納可能です。
多機能直流電子負荷(EZシリーズ)
多機能直流電子負荷(EZシリーズ)最大DC650V、50Aまで対応可能なモデルです。
制御モードも基本モードの4モードの他に、各モードの複合モード3モードを搭載し、7モードを搭載しています。また、パルス電流による二次電池の放電試験や電源負荷変動試験など、複雑な動作を要求されるような性能試験にも対応できるような機能も持っています。
回生電子負荷(PBRシリーズ)
最大DC1500V、360A、15kWまで対応可能です。連結により拡張も可能です。
電子負荷の電力を回生することが出来る双方向電源(回生電源)です。バッテリーや双方向DC-DCコンバータなどの試験に最適です。複数台のPBRシリーズを1台のキャビネットに収納したPBRMシリーズでさらにハイパワーな領域にも対応可能です。