プラズマとは
プラズマとは、物質の状態の1つで、気体よりもさらにエネルギーが高い状態です。一般に、物質の状態には固体、液体、気体の三態があり、温度が上がるに従い固体が液体になり、気体になります。
たとえば水は、結晶の状態では氷という固体になり、温度を上げると液体の水に、さらに温度を上げると水蒸気という気体になります。このように、物質は持つエネルギーによって物質の状態が決まっているのです。
物質は通常、電子が原子核の周りを動き回っています。原子核は陽子と中性子からなるプラスの電荷を持っているのに対し、電子はマイナスの電荷を持っているため、電子はクーロン力により原子核に引かれ、常に原子核の周りで運動しています。
しかし、気体の温度をさらに上げ、およそ数千℃という非常に高いエネルギーの状態になると、原子核の周りを回っていた電子が原子から離れ(電離され)、不安定な状態になります。この状態がプラズマです。
電離された不安定な状態では、エネルギーを放出して安定な状態に戻ろうとするため、プラズマは光や電磁波を発しており、光って見えます。また、電流が極めて流れやすく、さらに電磁力により電子の動きが大きくなるのが特徴です。
特別な状態のように思われるプラズマですが、自然界でもよく観測されます。雷やオーロラなどもその一種です。また工業的には、蛍光灯やプラズマトーチ、半導体の製造などにも利用されています。
半導体におけるプラズマ
半導体の製造におけるプラズマの活用事例を3つ紹介します。
① 成膜(プラズマCVD)
半導体の性能を決定づける重要な工程の一つに、ウェハー上に薄い膜を形成する「成膜」があります。特に、下地となる単結晶基板の結晶構造を引き継いで高品質な単結晶薄膜を成長させる技術は「エピタキシャル成長」と呼ばれ、高性能な半導体デバイスの製造に不可欠です。
このエピタキシャル成長にも用いられる代表的な成膜方法が、ガスを用いた化学反応で薄膜を形成するCVD(Chemical Vapor Deposition)法です。
CVDの中でも、プラズマを利用するのがプラズマCVD(プラズマ励起化学気相成膜、PECVD)です。エピタキシャル成長装置を含む従来のCVD装置(熱CVD)が高温での処理を必要とするのに対し、プラズマCVDは原料ガスをプラズマ化することで反応を促進させます。これにより、より低温での成膜が可能になります。
具体的には、半導体基板(ウェハー)の上に供給した原料ガスを直流(DC)電流や高周波(RF)電流、マイクロ波などによってプラズマ化し、化学反応を誘起して薄膜を形成します。この低温プロセスという特長から、シリコン窒化膜(SiN)やシリコン酸化膜(SiO₂)の成膜など、幅広い用途で利用されています。
従来の熱処理製法(熱CVD法)に比べ、低温で薄膜を形成できるのが特徴です。従来の熱CVDに比べて、より低い温度で成膜できるため、奥行きがある基板や、複雑な形状をした基板にも対応できます。
② プラズマドライエッチング
エッチングとは、半導体基板の表面に溝やパターンを彫る加工です。従来はエッチング液を使用したウェットエッチングという手法が用いられていましたが、近年ではエッチングガスやイオンなどを用いたドライエッチングが主流になっています。
プラズマドライエッチングは、基板の表面をプラズマで削り、エッチングを施す技術です。化学的物理的エッチング技術ともいいます。プラズマCVDと同じように基板の表面にガスを流し、ガスをプラズマ化させますが、このとき基板にイオンを衝突させ、プラズマに含まれる物質と化学反応を促進させます。これにより基板の表面を原子単位で精密に削り取ることができます。ドライエッチングでは、一般的に誘導結合プラズマ (ICP, Inductively Coupled Plasma) や容量結合プラズマ (CCP, Capacitively Coupled Plasma) などの真空放電プラズマを用いた反応性イオンエッチング (RIE, Reactive Ion Etching)が行われています。
ウェットエッチングと異なり廃液が出ないため、クリーンな加工方法であることに加え、ウェットエッチングよりも正確な加工が可能です。
エッチングをさらに深く行うことにより、半導体チップの切り分けを行うこともでき、プラズマダイシングと呼ばれています。ダイシングについては、「半導体の製造工程(後工程)」をご参照ください。
③ プラズマクリーニング
プラズマクリーニングとは、半導体基板の表面に付着している油などの有機物をプラズマで分解、気化する洗浄技術です。水や洗浄液を使用しない、ドライでクリーンな方法であることに加え、汚れを残さない、高いレベルの洗浄が可能です。
またプラズマクリーニングは処理対象物の表面の分子結合を切断し、水酸基を加飾することで、親水性を持たせることもできます。半導体の製造工程では、パターンの密着性を向上させるため、パターン加工されたPDMS(ジメチルポリシロキサン)表面に親水性を持たせるためにも使用されています。
炎はプラズマ?
ろうそくや薪を燃やすと、炎が立ち上がります。実はこの炎はプラズマであるとよく言われています。ただし、炎の明るさはプラズマ由来以外で説明できます。
ろうそくなどの燃料を燃やすと、燃料の中に含まれる炭素が空気中の酸素と結合します。酸化の際に発生するエネルギーは、酸化が起こっている場所から青い光として放出されます。
一方、炎の一番明るく輝いている部分は、反応に伴って巻き上げられた酸化しきれない燃料、つまり煤(すす)の燃焼によるものです。これは、どのような物質でも1,000℃以上に加熱されると黄色っぽい光を放つ「黒体輻射」という現象を起こしているためです。
では、どのような点がプラズマであると言われる理由なのでしょうか? 炎の中では、通常よりも長い距離の放電が可能です。これは、プラズマの特徴である、電気の流れやすい環境を満たします。
また、炎に光を当てると影ができる現象も、プラズマ中で運動している電子に光が衝突すると光を吸収したり散乱させたりする特徴に当てはまります。炎の周辺を電離した燃料がプラズマ状態になって包んでいると考えられるでしょう。
ただし、炎はプラズマとしてはエネルギーが低いため「プラズマではない」という説も存在します。つまり炎はプラズマの一種であるものの、定義を満たしている確証はないという意見です。人間の暮らしを古くから支えてくれた身近な存在である炎が、今も「一体何であるか?」と議論されているのは、少し面白いですね。
参考資料
関連製品
松定プレシジョンでは、プラズマ発生用の電源を含め半導体製造装置で使用される各種電源を製造しています。