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技術コラム

回生エネルギーとは?

回生エネルギーとは?

近年、エネルギーの分野でよく聞くようになった「回生エネルギー」とはどんなものなのでしょうか?

回生エネルギーは回生電力とも呼ばれ、省エネ効果を期待されるテクノロジーです。回生エネルギーをわかりやすく理解するために、まずはモーターと発電機の仕組みや関係性について整理しておきましょう。

モーターは通常、電力によって回転しています。一方、発電機は外からの力で軸を回されると電力を発生します。一見全く違った機能を持つように思えるモーターと発電機ですが、実はふたつの仕組みは同じです。

モーターと発電機

電力を消費して動力に変えるのが「モーター」、外から与えられた動力を消費して電力にするのが「発電機」と呼ばれているだけで、基本的な構造はほとんど変わりません。このように、モーターが発電機にもなれる仕組みが回生エネルギーの技術を可能にしています。

では、回生エネルギーの仕組みについて、電車を例に解説していきましょう。一般的に電車は、饋電線(きでんせん・架線に電力を供給するために、架線と並行して設置される電力線)から架線に取り込んだ電力でモーターを回して走行します。そのため、饋電線に直流電力を供給する直流饋電(きでん)方式が広く採用されています。

一方、電車がブレーキをかける際、モーターによる動力は必要なくなります。そこで車輪からの力をモーターに伝えます。すると車輪から伝わる力でモーターが回され、電力が発生。パンタグラフを介して架線に戻され、他の電車が使える電力になります。

電車の電力回生

これが回生エネルギーの基本的な仕組みです。

回生エネルギーの効果

回生エネルギーの効果として代表的な「省エネ」と「抵抗器の長寿命化」を解説していきます。

省エネ

回生エネルギーの最大のメリットは省エネです。従来、制動(ブレーキ)に使うエネルギーは、主に熱に変換されて排出されていました。つまり、発生した電力は活かされることなく捨てられていたのです。

これを電力として回収し活かすことは、エネルギーのムダを防ぐことになり、省エネにつながります。回生エネルギーが「エネルギーのリサイクル」と呼ばれる理由はここにあります。電車の例では、加速時に電車が取り込んだエネルギーに対し、ブレーキ時に回生したエネルギーの比率が30%から40%以上となるケースもあります。

また、なにか物を動かしたいとき、動き始めには大きな力が必要です。自転車をこぎ始めるときに大きな力を使えば進み出してくれるように、モーターの場合も始動の際に最も電力を必要とし、動き出してしまえば比較的低い電力でも稼働することができます。

よって、回生エネルギーとして回収した電力を最も必要とする場所に充てることで、電力使用のピークを抑えられる効果も期待できます。電力使用のピークを下げることは法人にとても有益です。

家庭で電力を使用する場合、一度にたくさん電気を使ったからといって追加で電気代を支払う必要はなく、使った分だけ支払います。しかし、工場などの法人契約では、ピーク電力を元に計算された「契約電力」が毎月の基本料金に大きく関わります。

契約電力とは、過去1年の各月の「最大需要電力」のうちで最も大きい値になります。最大需要電力とは、30分ごとの平均使用電力のうち、月間で最も大きい値を指し、東京電力の場合、最大需要電力が100kW多くなると基本料金だけで12万円以上も多く支払わなければなりません。

そのため、回生エネルギーを利用してピーク電力を下げることは省エネだけでなく、工場の電気料金(ランニングコスト)を下げる効果も期待できます。

抵抗器の長寿命化

もうひとつの効果が抵抗器の長寿命化です。例えばクレーンで荷物を下ろすときには、モーターが外からの力で回されます。従来は回されて発生した電力を抵抗器に流して消費していました。抵抗器は通常、受け取った電力を熱に変えて消費します。

しかし、抵抗器は自らが発生した熱により劣化してしまう場合があります。それを回避するために、発生した電力の一部を抵抗器と並列に接続されたバッテリーに回収させます。すると抵抗器にかかる負担が減り、抵抗器の発熱量も下がります。よって、抵抗器の寿命が長くなる効果が見込めるのです。

回生エネルギーと双方向電源

なお、回生エネルギーをバッテリーに蓄える場合、双方向電源と呼ばれる技術が便利です。クレーンで生じた回生エネルギーは100Vまたは200Vの電圧で交流なので、AC/DCコンバータで直流にし、DC/DCコンバータでバッテリーに見合った電圧に調整して充電します。

一方、充電されたバッテリーを放電する場合、DC/DCコンバータで100Vや200Vに昇圧した上でAC/DCコンバータで交流にします。

回生エネルギーと双方向電源

松定プレシジョンでは、回生機能を備えた高性能双方向電源装置を取り扱っています。双方向電源の仕組みや使われ方、利用のメリットなど、詳細は、コラム 双方向電源の使われ方をご覧ください。

身近なところで活用される回生エネルギー

省エネに対する需要の高まりもあり、現在、回生エネルギーは私たちの身近なところでも活用されています。先ほど例に出した電車やクレーンだけではありません。

回生エネルギーの使用場所例

  • 電車
  • クレーン
  • 駅の設備
  • 電気自動車/ハイブリッド自動車
  • エレベーター
  • 立体駐車場
  • エスカレーター
  • 工場

電車から発生する回生エネルギーが消費しきれなくなると、架線側の電圧が上昇します。すると、車両から送り返される側の電圧が架線側より高くなければ十分な電力回生を行うことができず、ブレーキの性能が低下する現象(回生失効)が発生します。

その消費しきれない回生エネルギーを有効活用する方法のひとつが「回生インバータ」です。この装置によって直流電力を交流電力に変換し、余剰電力を駅の設備に供給することが可能になります。

また、電気自動車やハイブリッド自動車では、ブレーキのときにタイヤの回転力でモーターを回すことで発電させます。回生エネルギーを使えば燃費が良くなるメリットがあります。

エレベーターや立体駐車場では、乗車数が少ない状態で上昇させたり、乗車数が多い状態で下降させたりしたときに発生するエネルギーが回生エネルギーになります。建物内で有効利用することで省エネ化を図ります。

エスカレーターでは、下り運転時に利用者が多い場合、モーターから発生する回生エネルギーを建物内で使用するほか、停電時の急停止を回避して緩やかに停止させるために利用できるものもあります。

回生エネルギーで工場全体の省エネ化に期待

工場のような多くの機械が同時に稼働する施設では、回生エネルギーを工場内の電源に戻すケースもあります。例えば、天井クレーンで荷物を下ろすときに発生した回生エネルギーは、回生機能を備えた装置を介せば電源に戻すことが可能です。

電源に戻された電力は、その時々で高い電力を必要とするほかの機械で消費できるため、効率の良い電力運用が可能になります。さらに、他の自然エネルギーやバッテリーと組み合わせて、災害などで停電が発生しても稼働できるようなシステムも実現可能です。
このように、回生エネルギーはより良い社会の実現に貢献するため、これからの世界に最も求められるの技術のひとつとして開発が進んでいく分野となるでしょう。