検索中...

技術コラム

系統連系は身近なもの

家電を購入したとき、特に照明機器などをコンセントに繋ぐとき、1980年代くらいまでは「切替スイッチ」があったのをご存じでしょうか。このスイッチは交流の周波数を切り替えるためのものでした。
最近は自動で切り替わるようになっているため知らない人も多いと思いますが、東日本と西日本では交流の周波数が異なります。東日本では50Hz、西日本では60Hzの交流が使われているため、そのままでは電力をお互いに送受信することはできません。具体的には中部電力は西日本側ですので60Hzで送電していますが、東京電力は50Hzで送電をしています。もしこの電力会社間で電力の融通を行うのであれば、周波数の変換を行う必要があります。現在は新信濃FC、佐久間FC、東清水FCの3ヶ所で接続していますが、ここには変電設備が設置されています。これも一種の系統連系です。

日本の商用電源周波数(cShigeru23:Wikimedia Commons)
日本の商用電源周波数(cShigeru23:Wikimedia Commons)

当然、家電製品も古い物はそのままでは接続することができず、東日本から西日本へ、またはその逆の地域へ引っ越しを行う場合、スイッチによって切り替える必要があるのです。ただし、これが面倒ですので、先にも書いた通り、最近の家電製品は自動的に切り替わるようになっています。

系統連系というのは、2つ以上の電力系統間で電力の融通を行う事を目的として、電圧や交流・直流など電源の種類が異なるそれぞれの系統を並列して運転する状態を指します。異なる系統で動いているわけですから、それを接続する場合には、それなりの仕掛けが必要です。
身近な例で言えば、家庭用の太陽光発電パネルを設置している家庭などが挙げられます。この場合、昼間は発電した電気を利用しつつ蓄電池に充電し、それでも余れば電力会社に売るという形を取っている家庭が多いでしょう。逆に夜になって発電できなくなれば、蓄電池や電力会社からの電力供給で照明や電子機器を動作させています。太陽光発電パネルや畜電池は基本的に直流電源なのに対し、電力会社の系統は交流電源ですから、異なる系統だと言えるわけです。

低圧配電線連系の住宅用太陽光発電システム構成の例
低圧配電線連系の住宅用太陽光発電システム構成の例

これの発電部分だけを取り出して大がかりにしたものが、メガソーラーから電力会社の所有する送電線への接続となります。メガソーラーでは、パワーコンディショナーから蓄電池へと電気を充電し(しない場合もありますが)、その後、一定の出力に調整した上で、送電系統に電気を流します。この場合、電圧を合わせると同時に、直流から交流への変換が必要になります。

系統連系を行う場合には、必ず変圧と直流・交流変換などが必要となります。この時、前回紹介した双方向電源に使われている技術が役になります。つまり、電力会社の送電線の系統は交流でやってきます。これは100Vまたは200Vの電圧になっていて、家庭用の電子機器はこの電圧で動作する様に設計されています。一方、太陽電池パネルや蓄電池からは直流でやってきますが、そのままでは家庭内で利用できません。100Vや200Vに昇圧した上で交流にする必要があります。これはまさに双方向電源が行っているのと同じ事です。

双方向電源の構成
双方向電源の構成

系統連系の仕組み

では系統連系を行うキモの部分はどの様になっているのでしょう。ここでは家庭用太陽光発電システムを例にしましょう。 電力会社の電力系統に連系するには「パワーコンディショナー」が必要となります。これはインバーターの一種で、太陽電池で発電された直流電流を「吸い込み」、位相や電圧を系統に合った交流に調整した上で系統に「流し込み」ます。このインバーター(DC/AC変換装置)と系統連系保護装置で構成されています。
インバーターには最大電力点追従機能(MPPT)と高調波抑制機能、逆潮流制御機能を備える装置が搭載されています。直流電力を系統電力と同レベルの電力に変化させ、系統接続された家電製品などに供給します。余剰電力については、系統側へ送り込む逆潮流を行います。
一方、系統連系保護装置は、電源を安定した状態で接続するために必要な装置です。太陽光発電は天候によって発電量が左右されます。天候不順やシステム上のトラブルなどで一定の電力量を供給できない場合、逆に発電のための条件が良すぎて大量の電気を供給してしまうと、これらは異常な電圧変動として現れます。この電圧変動は系統への負荷となってしまいますので、系統連系を行う場合には電圧調整を行う自動電圧調整装置の導入や、蓄電池を間に挟むことでの電力供給量の安定化を図ります。場合によっては系統側にトラブルが発生した場合に、太陽光発電システムへのダメージを最小限に抑える機能も持ち合わせます。場合によっては系統連系から切り離す「解列」を行う仕組みも必要です。これらは系統連系保護装置の果たす役割です。パワーコンディショナーは直流から交流への変換のみならず、これらの電源の安定化に必要な機構を内蔵しているのです。

系統連系型インバーターの基本構成例
系統連系型インバーターの基本構成例

2018年10月には九州電力が、晴天で太陽光発電での発電量が増えるのに対し、気温が上がらず電力需要が少ないという理由で、発電業者への出力抑制を依頼したりしています。実は家庭での太陽光発電のみならず、メガソーラーでも安定電源確保のための仕組み作りが求められているのです。

系統連系はパワー半導体が担う時代へ

系統連系は電源電圧の安定化が重要になっていることがわかると思います。この安定化された電源、特に直流を供給する電源としての機能は、電子機器を動作させるのに大変重要です。電子機器は車載用の12Vのものから、家庭内の家電製品に至るまで、基本的には直流電源で動作しています。
交流はトランス、整流回路、平滑回路からなるAC/DCコンバータで直流に変換され、さらにDC/DCコンバータで必要な直流電圧に変換されます。電子機器に内蔵されている半導体や回路は、必要な電圧がそれぞれ異なるため、異なる電圧のものを接続すると過電流が流れて回路を焼き切ることがあります。
逆に供給する電圧よりも必要とされる電圧が大きくなりすぎると、電圧が不安定になり電子機器を破壊する場合があります。この場合、家庭内ではブレーカーが作動し、系統連系から強制的に切り離すことで電子機器の回路と電源系統の両方を保護します。

また系統連系は「交流と直流の変換」「電圧の変換」が必要です。1990年代からはこれを効率よく行うための電力用半導体、通称「パワー半導体」の開発が進められています。これまでは様々な部品を組み合わせて回路を作っていましたが、これが高い電圧、大きな電流を扱うことができる半導体に置き換えられていっているのです。特に大きな電力を扱うことから熱を発し、この熱が故障の原因になりかねないため、発熱の原因であるパワー半導体自身の電力損失を少なくすることや、発生した熱を効率よく逃がす工夫をしています。特に炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの素材が開発されたことにより、高性能化が進んでいるのです。

参考文献