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技術コラム

電子機器は直流で動いている

一般に電子機器は直流で動作しています。これは身の回りにあるスマートフォンやパソコン、テレビや冷蔵庫、エアコンといった家電製品から、自動車の車載機器や工場内部で稼働している製造ロボットまで共通しています。ただし、これらの電子機器はそれぞれ動作する電圧が異なります。それだけではなく、一つの電子機器の内部でも、回路によって必要な電圧が異なります。ですので、例えばコンセントの交流を直流に変換するだけではなく、必要な電圧に変換して回路に提供する必要があります。
また、交流は電圧が時間とともに変化します。交流からそのまま直流に変換するだけだと、電圧の変動が回路の動作が不安定になりますので、安定した電圧への変換が不可欠です。

交流から安定した直流への変換

では安定した直流電圧を得る方法を紹介しましょう。電力会社の系統からやって来る交流電源を直流電源に変換するには、トランスで電圧を変換し、その後整流回路で交流から直流へと変換します。ただし整流回路からの出力は正弦波の形になっていて電圧の変動がありますので、これを安定した直流電源に変換するため、さらに平滑回路を通す必要があります。

交流から安定した直流への変換

基本的な流れは図の通りですが、完全に安定した直流電圧を得ることはできません。そこで商用電源から安定した直流電圧を取り出すためにさらに手を入れる必要があり、その方法は2つあります。一つはリニア電源で、もう一つはスイッチング電源です。

リニア電源(シリーズレギュレータ方式、シャントレギュレータ方式)

1つ目はリニア電源です。この方法では商用電源から取り出した非安定な直流電圧を基準電圧と比較しながら、抵抗器を使って余分な電圧を除去して安定化させます。
抵抗器を使うだけですので安価かつ単純な作りで実現できる一方、余分な電圧は熱として放出されますので、回路での熱のコントロールが不可欠となります。また、熱に弱い回路のそばでは利用することができません。

リニア電源

スイッチング電源

もう1つがスイッチング電源です。この方法では抵抗器を使わず、商用電源から取り出した非安定な直流電圧を基準電圧と比較しながら、スイッチング回路、高周波トランス、整流回路、平滑回路などを使って、パルス幅を変化させて安定させていきます。抵抗器を使わない分、熱の発生は抑えられますが、ノイズの発生がありますので、このノイズを取りのぞく必要が出てきます。
スイッチング電源はリニア電源に対して低消費電力であるというのが大きな売りです。もともとはNASAの宇宙開発から生み出された電源です。宇宙空間で運用される人工衛星や宇宙船はエネルギーを無駄にできない上、熱の放出が困難な場所ですので、廃熱を伴わずにエネルギーを使い切るための電源として開発されました。

スイッチング電源

リニア電源の基礎

先にも紹介したとおり、リニア電源は交流電源から余分な電圧を取りのぞきながら直流電源を作る方法です。ですから元の電圧よりも低い電圧しか得ることはできません。
リニア電源では平滑回路の次に制御回路を通すことで安定化します。この部分で、平滑回路では均しきれなかった余分な電流電圧を熱として放出することで安定化させますが、この回路には2通りあります。一つはシャントレギュレータで、もう一つはシリーズレギュレータです。

シャントレギュレータは抵抗器(R1)と定電圧ダイオード(ZD)としてのツェナーダイオードを並列に接続して構成されています。出力の直流電圧が変化した場合、シャントレギュレータでは電圧を安定させるため、最初に抵抗器で出力したい電圧に変換を行い、出て来た電流を出力したい電流と、余剰電流とに分解します。余剰電流は定電圧ダイオード側に流れる様にし、ここで熱として消費するのです。入力電圧が変動した場合は、抵抗器から出てくる電流値が変動するため、定電圧ダイオードの抵抗値を可変とすることで、出力電流値を一定にすることで安定化を図ります。

リニア電源の基礎

一方、シリーズレギュレータでは電流はエネルギー変換素子であるトランジスタ(Tr)を経由して流れます。このトランジスタ部分で変動する電圧を一定に保つのですが、出力側に対してトランジスタを直列に接続するためシリーズレギュレータと呼ばれます。
この場合、トランジスタが一定電圧を保つように変動させるには参照電圧が必要です。そこで、トランジスタに対して並列に制御回路を接続しますが、これは図を見ればわかるようにシャントレギュレータと同じ回路構成になっています。異なるのは発熱によって電圧を安定化させるのはあくまでもトランジスタであるという点です。

リニア電源の基礎

シリーズレギュレータはシャントレギュレータと比較するとノイズやリップルが小さく安定するというメリットがあります。いずれにせよ、リニア電源は回路構成が簡単ですので、発熱を伴うというデメリットはありますが、安価に直流電圧を作ることができます。

スイッチング電源の基礎

リニア電源の「構造は簡単だけど発熱量が大きい」という問題点を解消するために生み出されました。構造としてはトランス(2つのコイル)を使うことで電磁誘導を使い、これによって商用電源の周波数よりも高い周波数に電圧変換を行います。これはスイッチ(S)を開閉することにより電流をパルス状することで行います。

スイッチング電源の基礎

このパルスを作る方法としてPWM(パルス幅変調)とPFM(パルス周波数変調)とがあります。PWMは周波数を一定にしたまま、直流電圧の大きさに応じてパルス幅を変えて制御する方法です。出力電圧に対してリップルが小さいという特徴がありますが、消費電力は大きくなります。また負荷に対して応答性が高いという特徴もあります。
一方、低周波数の場合は消費電力が小さくなることもありPFMが有利ですが、負荷変動に対する応答が遅くなるのと、リップルが大きくなります。このような特徴を総合的に判断し、スイッチング電源では基本的にPWMを使いますが、負荷の軽いときはPFMを使います。さて、スイッチング電源には非絶縁型のチョッパ方式と絶縁型のトランス方式があります。

チョッパ方式は、最初に非安定な直流電圧を、商用電交流圧よりもはるかに高い周波数である数十kHz~数MHzのパルスの交流電圧(高周波)に変換します。電源をスイッチングし切っていくことから「チョッパ方式」の名が付けられました。
チョッパ方式ではチョークコイルの性質(自己誘導によるもの)を使うことで昇圧・降圧の双方に対応していて、その後制御回路と平滑回路を組み込む事で安定した直流電圧を得ます。
それに対してトランス方式では高周波トランスによる相互誘導を使って、チョッパ方式のチョークコイルと同じ役目を持たせています。

参考文献