ピエゾアクチュエーターは、ミクロン単位での精密位置制御に強みを持つアクチュエーターで、幅広い用途に活用できます。ただ、ピエゾアクチュエーターの使い方には様々な注意点があり、正しく使用するにはそれらを理解した上で設計を行う必要があります。そこで本稿では、ピエゾアクチュエーターの特徴や原理を含め、選定や設計時の注意点などをピエゾドライバと共に詳しく解説します。

ピエゾアクチュエーターの特長
まずは、ピエゾアクチュエーターの特徴や用途などを紹介します。
ピエゾアクチュエーターとは
ピエゾアクチュエーターとは、圧電素子(ピエゾ素子)を使い、電気信号を物理的な運動に変換する装置のことです。そもそも圧電素子は「電圧を与えると変形や歪みが生じる」性質を持つ物質であり、ピエゾアクチュエーターはこの性質を利用してエネルギーの変換を行います。
物質の構造上の変化を活用するため変位量は非常に小さいですが、その分サブミクロン単位の精密な制御が行える特徴があります。他にも、駆動周波数の高さや、トン単位の大きな力が出せること、駆動部品がないことによる寿命の長さなど多くの特徴を持つため、精密位置制御を始めとした幅広い用途で活躍しています。
ピエゾアクチュエーターの用途
続いて、ピエゾアクチュエーターがどのような用途で使われているかを紹介します。まず産業用途では、光学レンズなどの位置決めや光ファイバの光軸合わせ、半導体製造装置のマスクなどの位置制御、電子顕微鏡での試料位置調整や操作といった精密制御でピエゾアクチュエーターが用いられています。また、民生用では、デジタルカメラのピント調整・手振れ補正機能や、インクジェットプリンターのポンプなどに多数使われています。他にも自動車の燃料噴射ポンプや超音波振動の生成用機器など、幅広い用途があります。
ピエゾアクチュエーターの種類
ピエゾアクチュエーターは、構造と利用する圧電材料の違いにより、いくつかの種類に分かれています。主に利用されている種類ごとの特徴を紹介します。
圧電材料
まずは、圧電材料の種類ごとの特徴を紹介します。
圧電単結晶
圧電単結晶ピエゾ素子は、物質の原子配置が全て均一に揃っている「単結晶」の材料を使ったピエゾアクチュエーターのことです。単結晶の圧電素子は、結晶が揃っていることにより、特定の結晶方位で大きな圧電効果が得られるという特徴があります。圧電単結晶として知られるのは水晶、ニオブ酸リチウムなどですが、他にも様々な種類があり、今もより圧電効果の大きい物質の研究が行われています。
圧電セラミックス
圧電セラミックスは、圧電効果を持つ物質を加熱し、焼き固めてセラミックスにした物質のことです。製造されたばかりの圧電セラミックスは結晶方向がばらばらで、発生する力も弱いことから、分極処理によって結晶を揃える工程が入れられます。
圧電体としての性能は圧電単結晶と比べると低いですが、製造が簡単で、分極処理により自由に圧電方位を変えられるというメリットがあります。チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT: チタン酸鉛(PbTiO3)とジルコン酸鉛(PbZrO3)で形成される混晶)などが代表的な材料となります。
圧電薄膜
圧電薄膜は、圧電材料をマイクロメートル単位に薄く成膜した材料のことです。酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛、窒化アルミニウムを始めとした圧電材料を、スパッタ法などで成膜することで作られます。MEMSを始めとした超小型の圧電素子の材料となっており、今では最も多く使われています。
アクチュエーターの構造
積層型
積層型は、圧電材料を何層にも重ね、それぞれに電極を付けることで作られるピエゾアクチュエーターです。各層の圧電素子が積層方向に伸縮することで、大きな変位が得られます。低い駆動電圧で大きな変位が得られるほか、大きな力が発生できること、高速応答に向くといった特徴があります。
バイモルフ型
バイモルフ型は、ピエゾ板を2枚張り合わせることで作られるピエゾアクチュエーターです。片方のピエゾ板は電圧をかけると屈曲して伸び、もう片方が同方向に縮むことで、円弧状に変位します。変位量が非常に大きいという特徴がありますが、発生する力は小さく、応答速度も低いです。
チューブ型
チューブ型は、ピエゾ素子を円筒型に形成し、内面と外面に電極を配置したピエゾアクチュエーターです。円が広がる形で変位する広がり動作、縦方向に伸びる伸縮動作が行えるほか、外側の電極を複数配置すれば屈曲方向や3軸での変位を行うこともできます。走査型プローブ顕微鏡(SPM/AFM)、インチワーム、ミラー制御などの特殊用途で使われます。
その他
上記で紹介した以外にも、ピエゾアクチュエーターの構造は様々な種類があり、用途に合わせて使い分けられています。例えば、積層型のピエゾアクチュエーターに機械的な増幅機構を取り付け、てこの原理で応答速度の速さなどを保ちつつ大きな変位量を実現したアクチュエータやステージがあります。ピエゾ素子のメーカーのホームページにも紹介されているので、気になる方はご覧ください。
ピエゾアクチュエーターの動作原理
次に、ピエゾアクチュエーターがどのような原理で動作しているかを解説します。
電気分極の原理
分極とは
物体が圧電素子として動作する仕組みは、「電気分極」という現象が関係しています。あらゆる物体は内部に陽イオンと陰イオンを保有しており、これらが結晶構造を作ることで電子的なバランスを取っています。ここで、圧電素子として働く物質は、力をかけると結晶構造がずれ、陽イオンと陰イオンの位置関係がずれてしまうという性質を持っています。
イオン同士の均衡が破れると、一方に正の電荷が、もう一方に負の電荷が偏るので、電気的に分極された状態となります。分極が発生すると間に電圧が発生するので、結果的に「圧電素子に力を加えると電圧が発生する」状態となります。
圧電効果
このように、圧電素子に力を加えることで電気分極が生じ、電圧が発生する現象のことを、一般的に「圧電効果」と呼んでいます。圧電効果は電源がない環境下でも電気を生みだせるのが他にない特徴で、ライターなどの点火装置や、圧力センサーなどに用いられています。
逆圧電効果
圧電素子は、電圧を加えることで圧力や振動などの物理的な力を発生させることも可能です。これを、圧電効果と逆のプロセスであることから「逆圧電効果」と呼びます。ピエゾアクチュエーターもこの逆圧電効果を活用しており、他にも時間を刻む水晶振動子、小型スピーカーなどといった用途があります。
ピエゾドライバによる制御
ここまでピエゾアクチュエーターの種類や特徴などを紹介しましたが、実際に利用する際は、適切な制御を行うためのドライバ(ピエゾドライバ)が必要になります。ピエゾドライバの役割と、制御方式について解説します。
ピエゾドライバとは
ピエゾドライバとは、ピエゾアクチュエータを適切に動作させるための電源を供給する装置のことです。ピエゾ素子は電圧によって変形します。高速動作でなければ電流は必要ありませんが、素子に静電容量があるので高速に動作させる場合には電流が必要になります。必要な電流値は、後述する「電流値」にてご確認下さい。
また、圧電素子は容量性素子であり、電荷の吸い出しを行う必要があるので、専用の電源としてピエゾドライバが用意されています。なお、ピエゾドライバの制御方式は、ピエゾアクチュエーターを制御する方式により、オープンループ制御とクローズドループ制御用の2種類に分かれています。
オープンループ制御
オープンループ制御は、あらかじめ印加する電圧に基づく変位量を測定し、必要な印加電圧を決める方式です。シンプルな制御方式のため構造が単純で、安価に作れるというメリットがあります。一方で、変位の非線形性やヒステリシス性を考慮できず、温度変化やクリープ現象などにより生じる誤差も補正できないため、使用条件によってはピエゾアクチュエーターの精度が保てない場合があります。
クローズドループ制御
オクローズドループ制御は、ピエゾアクチュエーターの変位出力をフィードバックさせ、その情報をもとに入力を調整する制御方式です。変位の非線形性や各種誤差を検知して供給電源を調整できるので、ピエゾアクチュエーターの精度を向上させることができます。
変位計
クローズドループ制御を選択する場合、ピエゾアクチュエーターの変位量を計測するための変位計が別途必要となります。
変位計とは
変位計とは、その名の通り物体の動きである変位量を測定できる機器のことです。物体が移動した距離はもちろん、寸法の変化なども捉えることができ、ピエゾアクチュエーターの変形による変位量も正確に測定することができます。
変位計の種類
変位計には様々な種類がありますが、ピエゾアクチュエーターのクローズドループ制御においては歪ゲージ、静電容量型、渦電流センサの3種類が主に用いられます。歪ゲージは、ピエゾアクチュエーターの変位部に歪ゲージを取り付け、変位量を計測する機器のことです。単純な構造で精度も良いですが、ピエゾアクチュエーターにセンサーを張り付ける必要があります。
静電容量型は、センサーと測定対象間の静電容量を測定し、変位量を計測する方式です。非接触で変位を測定できますが、アクチュエーターとセンサー部を導通させる必要があるほか、水などの異物が入ると正確に測定できないという欠点もあります。渦電流センサは、コイルを金属などの導電体に近づけて高周波電流を流すと、渦電流が生じることを利用したセンサです。非接触で測定でき、静電容量型のような外部要因によるノイズの影響を受けにくい特徴があります。
ピエゾアクチュエーターの正しい使い方
ピエゾアクチュエーターで正確に求める動作を実現するには、不具合や不要な誤差が生じないよう、注意して扱う必要があります。ここでは、主に注意すべき点を解説します。
与圧の設定
ピエゾアクチュエーターを振動させる用途などでは、慣性力などによる外力が不具合の原因になります。例えば、積層ピエゾアクチュエーターは積層方向の圧縮方向の力以外に弱く、引張り方向や曲げ方向の力、圧縮方向でも偏った力を加えると破損することがあります。
そこで、ピエゾアクチュエーターに振動などで様々な力がかかりやすい環境下では、ばねなどでアクチュエーターに与圧をかける対策が有効です。与圧をかけると圧縮方向以外の力がかかりにくくなるため、外力による不具合を防ぐことができます。

ストローク
測定対象による荷重がピエゾアクチュエータにかかる場合、荷重によってピエゾアクチュエータが縮み、最大ストロークが減ってしまうという問題が生じます。そのため、ピエゾアクチュエータを選定する際は、荷重による縮みを考慮した上で、余裕のある最大ストロークを持った製品を選定しなければなりません。
電流値
ピエゾアクチュエーターを正確に動作させるには、駆動電流が十分に供給できるピエゾドライバを選定する必要があります。ピエゾアクチュエーターが正弦波駆動する場合は、以下の計算式で最大電流値、平均電流値が計算できます。
最大電流値=Π×圧電素子の静電容量×駆動周波数×駆動電圧
平均電流値=最大電流値×2/Π
一方、パルス駆動する場合は電圧の立ち上がり、立ち下がり時に必要な電流値が、以下の計算式で算出できます。
立ち上がり/立ち下がり電流値=静電容量×駆動電圧/応答速度
実際には、静電容量の誤差を始め様々な要因により必要電流は変わります。そのため、上記の計算はあくまで目安として考慮するとよいでしょう。
動作温度範囲
ピエゾアクチュエーターは、圧電素子のキュリー温度を超えると機能を失うため、キュリー温度以下の範囲内で機器を使用する必要があります。キュリー温度とは、熱エネルギーによって自発分極が喪失されることで、圧電体としての性質を失う温度のことを指します。つまり高温条件でピエゾアクチュエーターを利用したい場合は、キュリー温度が高い圧電素子が使われた製品を利用する必要があります。
負荷の適切な設定
ピエゾアクチュエーターは製品ごとに固有の共振周波数を有していますが、負荷が接続されると共振周波数が変化し、予期せぬ不具合の原因となる場合があります。特に負荷の質量が重い場合は実際の共振周波数が小さくなりやすいので、共振周波数よりも小さな周波数で動作させる必要があります。
応答速度
ピエゾアクチュエーターに高い応答速度を求める場合、圧電素子が短時間で所定の電圧を持つよう、大きな電流を流さなければなりません。応答速度が速いほど必要電流量は大きくなるので、ピエゾドライバが十分な電流値を流せるか注意する必要があります。
共振周波数
負荷の適切な設定の項でも触れましたが、圧電素子はそれぞれ固有の共振周波数を持つ点に注意しましょう。ピエゾアクチュエーターを高速応答させると、共振により振動が増幅され、予想外の挙動を引き起こす可能性があります。ピエゾアクチュエーターのデータシート上では共振周波数が高く、余裕があるように見えますが、接続される負荷や固定方法などによって共振周波数が変化するため注意が必要です。使用の目安は共振周波数の1/3~1/5程度と言われますが、実際の使用条件に合わせて適切な製品を選ぶ必要があります。
注意点
ピエゾアクチュエーターを動作させるための電源には、アンプ型の電源が必要になることに注意しましょう。圧電素子は容量性素子なので、電源を吐き出すだけでなく、吸い込みも行う必要があります。通常の直流安定化電源では対応していないので、専用のピエゾドライバを利用する必要があります。
ピエゾアクチュエータの選定
上記で解説した内容をまとめ、ピエゾアクチュエーターの選定において特に考慮が必要な点をおさらいします。まず、必要ストロークや必要発生力を、負荷による弾性も考慮して計算します。次に、駆動速度が速い場合は、静電容量が小さく高速駆動に対応しているかを確認します。最後に、電圧と変位量の線形性(ヒステリシス特性)を確認し、非線形性が強い場合や制御を精密に行わなければならない場合はクローズドループ制御を構築します。クローズドループ制御の場合は変位センサが必要となるので、用途に合った変位計を導入しましょう。
松定プレシジョンのピエゾアクチュエーターとピエゾドライバの紹介
松定プレシジョンでは、ピエゾアクチュエーターと汎用性の高いピエゾドライバをラインナップしています。
ピエゾアクチュエーター
PZシリーズ
PZシリーズは、変位センサ搭載で高精度な変位制御が可能なリニアピエゾアクチュエーターです。40種類のラインナップを取りそろえており、あらゆる用途に使用できます。
- • 変位センサ(歪ゲージ)搭載
- • 最大ストローク:22μm~110μm
- • 最大発生力:800N~19000N
- • 金属パッケージによる高い耐環境性能
- • ストロークやパワーの異なる40種類のモデルを保有

PZAシリーズ
PZAシリーズは、ピエゾ素子の積層により、ナノオーダーの分解能を実現したリニアピエゾアクチュエーターです。変位センサ搭載で45種類のモデルを有しており、あらゆる用途に使用できます。
- • 変位センサ(歪ゲージ)搭載
- • 最大ストローク:22μm~132μm
- • 最大発生力:800N~3000N
- • 金属パッケージによる高い耐環境性能
- • 3種類のパワーと5種類のストローク、3種類の先端形状のモデルを保有

ピエゾドライバ
PZDEシリーズ
デスクトップタイプのバイポーラピエゾドライバです。大容量のピエゾ素子の駆動や多数の素子の並列駆動、加振などの正弦波駆動でも高速での駆動が可能です。
- • 10μFのピエゾを100Hzで駆動可能
- • 定格出力電圧:150Vdc~300Vdc
- • 定格出力電流:0.3Amean~0.75Amean

PZDRシリーズ
デスクトップタイプのハイパワーピエゾドライバです。大容量のピエゾ素子の駆動や多数の素子の並列駆動、加振などの正弦波駆動でも高速での駆動が可能です。
- • 10μFのピエゾを900Hzで駆動可能
- • 定格出力電圧:100Vdc~300Vdc
- • 定格出力電流:0.67Amean~2.0Amean
- • 6Aのピーク電流による高速ステップ駆動に対応

HJPZシリーズ
3ch出力にも対応可能な小型卓上型の高速ピエゾドライバです。X・Y・Zなど多軸でのドライブが必要な場合にも1台で対応できます。
- • 小型ベンチトップタイプ
- • 3chのピエゾドライブが可能
- • 1μFの素子を1.3kHz正弦波でドライブ可能
- • 定格出力電圧:100Vdc~300Vdc
- • 定格出力電流:0.1Amean~0.3Amean

PZDP-0.15シリーズ
パルス出力でピエゾ素子の高速ドライブが可能なピエゾドライバです。大振幅駆動のパルス出力に対応しています。
- • 小型ベンチトップタイプ
- • ピーク電流50A、平均電流100mAの大出力
- • 定格出力電圧:150Vdc
- • 定格出力電流:0.1Amean

HJPZ-Sシリーズ
センサアンプを備え、クローズドループ制御に対応した小型卓上型のピエゾドライバです。ピークパワー増大型のドライバで、パルス駆動時に高速での変位が可能です。
- • 小型ベンチトップタイプ
- • クローズドループ制御に対応
- • 定格の3倍ものピーク電流
- • 定格出力電圧:120Vdc~150Vdc
- • 定格出力電流:0.1Amean~0.3Amean

HPZAシリーズ
各種ピエゾ素子の駆動用に最適な、組込型の小型ピエゾドライバです。低ノイズながらコンパクト設計で、組込む装置の小型化に貢献します。
- • 機器組込みに最適な小型モジュール
- • バイポーラタイプの製品もラインナップ
- • 最大50mAのピーク電流出力が可能
- • 定格出力電圧:75Vdc~150Vdc
- • 定格出力電流:20mAmean

HPZT-0.12BSシリーズ
センサアンプを備え、クローズドループ制御に対応した小型組込型のピエゾドライバです。ピークパワー増大設計により、小型ながらより大型のドライバと同等に使用できます。
- • 機器組込みに最適な小型モジュール
- • クローズドループ制御に対応
- • 定格の2倍のピーク電流が出力可
- • 定格出力電圧:120Vdc

HPZTシリーズ
ピエゾ素子ドライブ専用に開発された小型モジュールタイプの高圧電源です。外部信号により出力の制御が行えます。
- • 機器組込みに最適な小型モジュール
- • 定格出力電圧:100Vdc~1000Vdc
- • 定格出力電流:3.3mAmean~30mAmean

HPZT-B(0.3W)シリーズ
ピエゾ素子駆動用に設計された、電源とアンプ一体型の小型オンボードモジュールです。特にポジショナ駆動に最適となるようにピーク電流を増強しています。
- • 小型オンボードタイプ
- • 0.01μF~10μFの静電容量に適合
- • 定格出力電圧:100Vdc~300Vdc
- • 定格出力電流:1mAmean~3mAmean
