走査電子顕微鏡とは
SEM(走査電子顕微鏡)とは電子線を用いて、数10倍~100万倍程度の表面の拡大像を取得できる顕微鏡です。電子線は可視光と比較すると非常に波長が短く、光学顕微鏡よりも微細な凹凸や組成分析が可能です。
電子銃の構造
電子銃は光学顕微鏡の光源に相当する部分です。フィラメントの素材や電子の発生方法で、様々な特長の電子線を作ることができます。
タングステン型熱電子銃 | 六ホウ化ランタン熱電子銃 |
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エミッタ材料:タングステン線 輝度:104~105(A/cm2/sr) 真空度:10-3(Pa) 用途:卓上SEM~汎用SEM |
エミッタ材料:LaB6 輝度:106(A/cm2/sr) 真空度:10-5(Pa) 用途:汎用SEM |
電界放出型電子銃(FE電子銃) | ショットキー電子銃 |
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エミッタ材料:タングステン単結晶 輝度:109(A/cm2/sr) 真空度:10-8(Pa) 用途:高分解能SEM |
エミッタ材料:ジルコニア/タングステン 輝度:108(A/cm2/sr) 真空度:10-7(Pa) 用途:分析SEM |
対物レンズの構造
対物レンズは像の焦点を合わす最も重要なレンズです。試料を置く位置やポールピースの形状により、3種類の対物レンズに大別されます。
アウトレンズ方式 | インレンズ方式 | セミインレンズ方式 |
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最も一般的な対物レンズの形状です。対物レンズの下に試料を置き、検出器で観察します。漏れ磁場は他の対物レンズよりも少ないため、磁性材料など、様々な試料を観察できるのが特徴です。 | 試料を対物レンズの磁界中に置くため、収差が非常に小さい対物レンズです。大型試料や磁性材料の観察は難しいですが、電界放出型電子銃(FE電子銃)と組み合わせることで、最高解像度を実現することができます。 | アウトレンズ方式とインレンズ方式の中間的な対物レンズです。ポールピースの形状を工夫し、漏れ磁場を使用することで、アウトレンズ方式よりも短いワークディスタンスで観察することができます。 |
加速電圧による像の見え方の違い
像の見え方は加速電圧によって大きく異なります。加速電圧と試料の組成・密度・結晶方位により、一次電子線の電子散乱領域が異なるためです。軽元素よりも重元素のほうが、また同組成であれば加速電圧が低いほうが電子散乱領域は小さくなり、得られるSEM像は表面情報により敏感になります。低加速電圧にすることにより、高加速時には見えなった軽元素の微細な凹凸構造が観察できるようになります。
リターディング法(減速法)
リターディング法(減速法)とは試料に負電圧を印可して、一次電子線を試料直前で減速させる方法です。例えば、一次電子線を電子銃部で5.0kVに加速し、試料に-4.0kVを印可すれば、一次電子線は負電圧の影響を受け、1.0kV(=5.0kV-4.0kV)のエネルギ-に減速されて試料に照射されます。この方法は、高加速電圧の条件で一次電子線が電子源から対物レンズまでを通過するため、電子銃部で1.0kVに加速するよりも収差が低減し、低い照射電圧(低加速の一次電子線)でも高分解能な観察を可能にします。
走査電子顕微鏡を用いた主な分析
電子線を試料に照射すると、二次電子や反射電子以外にも多くの信号情報が発生します。そこから特性X線分析(EDS・WDS)、後方散乱電子回折(EBSD)、電子線誘起電流(EBIC)などの様々な分析が可能となります。今回はSEMでよく使用されるエネルギー分散型X線分析(EDS)について説明します。
エネルギー分散型X線分析(EDS分析)
電子線を試料に照射すると、X線が発生します。このX線を検出して元素情報を取得する装置が、エネルギー分散型X線分析装置(EDS) です。SEMと組み合わせることでミクロンオーダーの元素情報を得ることが可能です。