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技術コラム

高圧電源の選び方-分析装置編 分析装置の性能と電源性能の関係|松定プレシジョン

分析装置の分類と電源

今回は各種分析装置の電源について紹介します。とはいえ、分析装置に共通する部分と、それぞれ個別の部分がありますので、まずは分析装置の種類や分類から説明していきます。
まず、分析装置は大きく分けると以下に分類されます。

  1. 電気化学分析
  2. 光分析
  3. 電磁気分析
  4. 分離分析
  5. 熱分析・熱測定
  6. その他測定・分析

電気化学分析では、実際に電気がどの程度流れるかによって測定を行う装置(電位差滴定装置やpH計)と、蛍光式溶残酸素計のように蛍光をフォトダイオードで検出・測定するものがあります。光分析、電磁気分析の装置は、基本的に電磁波や電子線(または電子線によって発生する2次X線)をフォトダイオードで測定します。分離分析、熱分析・熱測定、その他測定・分析も電気化学分析同様、フォトダイオードで蛍光や光吸収を検出して計測するものと、応力や熱伝導率を電流値で計測するものとに分かれます。いずれにせよ、最終的には電流または電圧の変動として検出し、A/D変換によってデジタルデータ化されます。従って、これに影響を与えるような電圧変動やリップルなどのノイズ成分をどの様にして取り除くのかは、大きな問題です。

今回は電源の安定性がより求められる、光源からの光(電子波)をフォトダイオードで検出する機器を中心に考えます。

これらに共通するのは、何らかの光源があるということです。電子線、X線、レーザー、紫外線、可視光線、赤外線など装置によって異なりますが、すべてこれらを光源とし、その透過光や反射光を検出する事で分析を行っています。この際に重要なのは光源が安定していることです。輝度(強度)が変動しては変化を記録するのに不都合が生じます。そして光源を安定させるには、電力を供給する電源が安定していなければなりません。電源が不安定な場合や、リップルが出るなどしてしまうと観測精度に問題が出ます。

一方、検出器側にも安定性が求められます。フォトマル(PMT:光電子倍増管)、APD(アバランシェ・フォトダイオード)、PINなどのフォトダイオード、CCD、CMOSなども、素子が受け取ったフォトンのエネルギーや数に応じた電荷を電圧に変換している。従って、この電圧変換の際に電源が安定していないと、分解能などの観測結果に悪影響を及ぼします。

CMOSの回路構成
図:CMOSの回路構成

ノイズの除去

電源を安定させ、誤差の少ない測定結果を得るには、いくつかの点に注意する必要があります。大きく分けると、

  1. 熱雑音
  2. 漏洩磁場
  3. 電磁妨害(電磁干渉、電磁障害:EMI=Electromagnetic Interference)

まずは1.熱雑音の影響について考えます。熱雑音は抵抗やトランジスタなど、回路素子中の自由電子が外部からの熱エネルギーの影響で、不規則な熱振動を起こすことによって生じる雑音を指します。電圧の大小には関係なく、絶対温度に比例して雑音は増えていきます。従って、有効な対処方法は「回路の冷却」ということになります。
ちなみに熱雑音は、この現象を1927年に見つけた研究者、ジョン・ジョンソンとハリー・ナイキストの名前から、ジョンソン雑音、またはジョンソン・ナイキスト雑音とも呼ばれます。

次に2.漏洩磁場ですが、こちらは電源内部の巻線(コイル)が作る磁場が外部に漏れ出すことによって発生します。

開磁路構造

漏洩磁場対策
ノンシールド

磁場漏洩が他のコイルや配線パターンと磁気結合するとノイズの原因になることがあります。

閉磁路構造

漏洩磁場対策
フルシールド

磁束はシールドコアを還流するので漏洩磁場は低減します。

これには図の様に、レジンシールド、フルシールド、金属一体成型といった方法で閉磁路構造を作ることで改善することが可能です。可能であれば光源や検出器のそばには電源を置かないような機器設計を行う事が望ましいのですが、小型化などで磁場の影響を受けやすい検出器などが電源のそばに配置されてしまう場合は、必ず閉磁路構造を取り入れる必要があります。

3.電磁妨害については、大きく分けて「放射ノイズ」と「伝導ノイズ」があります。前者は電磁波が放出されてしまうもので、後者は電気回路を伝ってノイズが流れてしまうものです。
放射ノイズについては、ノイズの空間伝導を遮断する必要があります。それには金属などの良導体(もしくは磁性体)で対象物をシールドします。 一方、伝導ノイズにはディファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズがあります。

ディファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズ
図:ディファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズ

特にコモンモードノイズはループを最適化しても残るスイッチングノイズの成分で、電源側に伝導して、電源を不安定化させます。そのため、検出器からのシグナルがノイズに埋もれて測定できないということが発生します。もちろんノイズが入ると分析の分解能が悪くなりますし、波形がシフトする、歪む、ゴーストピークが現れるなどの悪影響を及ぼします。
コモンモードノイズは、漏れたノイズ電流が、大地を経由して電源ラインに戻ってくるノイズです。電源の正極、負極の両方で、ノイズ電流の向きが同じであることから「コモンモード」と呼ばれます。
対策としてはインダクタなどの、インピーダンスの高い部品を伝導するラインに挿入して、ノイズを閉じ込めるのが有効です。また、コモンモードノイズも放射ノイズを発します。この時の電界強度はケーブル長に比例しますので、シールドと同時にケーブル長をなるべく短くすることも対策としては重要です。

その他、分析装置に電源を組み込む時の注意点としては、温度、湿度、薬品による腐食などにも注意が必要です。温度は熱雑音の元にもなりますので、電源があまり高温にならないようにする必要があります。また湿度は結露による内部回路ショートの原因にもなりますし、腐食は回路にダメージを与えるのに加え、腐食電流の発生など、予期しない誤差の原因となります。

参考文献