世界に目を向けてみると、衛生的な水が常に手に入る環境が当たり前ではない地域も多く、水をきれいにする技術に注目が集まっています。また、混ざり物のない純水は、半導体製造や精密機器の洗浄、化学製品の製造などにおいて欠かせません。この記事では水処理の方法などについて紹介します。
水処理とは
水処理とは、水の中から不純物を取り除くために行われる処理のことです。見た目が汚れているだけでなく、きれいに見える水であっても、中にさまざまな不純物が混ざっています。不純物の内容は大まかに次の5種類に分けられます。
夾雑(きょうざつ)物
いわゆるゴミです。水に混ざったホコリや粘土、砂鉄など。
水生生物
細菌や微生物など、生きている混ざり物がこれに該当します。
有機物質
水に溶けた有機物質です。藻類や樹木が微生物の働きで分解されたものや有機洗剤、有機肥料など。
無機塩類
水に溶けている無機塩類です。カルシウムのような水の硬度成分になるものの他、塩分や鉄分など。
気体
水には、空気と接していくうちに空気中の気体を取り込むなどの理由により、さまざまな気体が溶けています。二酸化炭素や酸素、硫化水素などがこれに該当します。
上記のような不純物を取り除き、目的に合わせた水を得るのが水処理です。
水処理の目的
水処理の目的には大きく分けて3種類あります。
汚れた水をきれいな状態にしてから自然に戻す(下水処理)
排水の浄化処理です。工場の排水や生活排水から自然に害のある物質や夾雑物を取り除いたりします。
川の水や地下水から生活用水を作る(浄水処理)
川の水や地下水にもさまざまな不純物が混ざっています。水に含まれる菌や有害物質を取り除き、飲料水や安全な生活用水を作ります。
産業用
産業用では純水といわれる、生活用水よりもさらに不純物の少ない水が必要になるケースもあります。そのための水を得る処理です。
産業用としては、半導体製造用や精密機械製造用に使われる、純水の中でも特に不純物が少ない超純水が作られています。
量として一番多く、最も身近に行われているのは下水の浄化です。また生活用水を作るために、川の水を浄水場で処理したり、海水を淡水化したりといった処理が行われています。
水処理の方法
水処理の方法は大きく2種類に分けられます。
物理化学的処理
物理化学的処理には、汚濁物質の大きさや比重といった物理的特性で不純物を分離させる物理的処理と、化学的特性によって不純物を分離させる化学的処理の2つに分類されます。それぞれの処理には、次のような手法があります。
物理的処理:沈殿分離や浮上分離、ろ過
化学的処理:イオン交換、酸化(オゾン)、電気透析、電気分解
生物的処理
生物的処理とは微生物を利用し、微生物による吸収や分解の作用を利用したり、生物を処理したりする方法です。下水の処理に使われる、いわゆる曝気槽(ばっきそう)も生物的処理の代表例です。また殺菌などを行い、水中の生物を処理する方法も生物的処理に含まれます。
進化する水処理
半導体産業や精密機械産業が発展したことで、そこで使用する超純水の需要が伸びています。それに伴い、水処理の技術もまた進化しています。ここでは比較的新しい水処理を3つ紹介します。
RO膜
RO膜は逆浸透膜とも呼ばれる水処理の方法です。一般的に半透膜を挟んで塩水と真水を入れておくと、真水が膜を通り抜けて塩水側に移動します。そして膜の両サイドで浸透圧が生じます。
しかしこのとき、塩水側に浸透圧以上の圧力をかけると、逆浸透現象が発生し、塩水側から真水側に水が移動していきます。この方法は海水を脱塩して淡水にするために用いられていましたが、近年では超純水製造システムや水回収分野で使用されています。
イオン交換
イオン交換(Electro- deionization)はEDIとも表記されます。複数の膜から構成されたモジュールとして運用されます。
EDIモジュールは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に並べたものを陽極と陰極で挟み、さらにその隙間をイオン交換樹脂で充填(じゅうてん)した構造になっています。
陽極と陰極の間に直流電流を流すと、塩化物イオンなどの陰イオンは陽極に、ナトリウムイオンなどの陽イオンは陰極に移動します。陽イオン交換膜と陰イオン交換膜は、それぞれ陽イオン、陰イオンのみを通過させる構造になっています。
そのため交換膜の間に、イオンの濃縮区画と希釈区画がそれぞれ構成されていきます。この希釈区画を通過した水を集め、純水を得る仕組みです。運用時には定期的にイオン交換樹脂を入れ替える必要があります。
CDI
CDI(Continuous Deionization)とは、米国 IONPURE®がライセンスを持つ純水装置の名称です。電気の力で水の中のイオンを移動させて純水を得ます。薬品などを使用せず、さらに定期的なイオン交換樹脂の交換も必要ないのが特徴です。
CDIは主に医薬品の製造や半導体の製造で使用されています。
EDIやCDIは、直流電流を使って連続的に純水を作る装置です。薬品を使わないため排水処理が必要ないのがメリットです。またEDIやCDIに使用されるイオン交換膜は、純水の製造だけでなく金属の回収用途でも使われています。
EDIやCDIに使用される直流電源の電圧や電流は、イオン交換膜のサイズによって異なりますが、電圧はおおむね300Vから500V程度、電流は数Aから10A程度の電源が使われています。またこのとき、直流電源は、定電流(CC:Constant Current)モードで使用されます。
松定プレシジョンの直流電源は、これらの水処理用途で使用されています。
参考資料
-
栗田工業株式会社
水処理とはなにか https://kcr.kurita.co.jp/wtschool/002.html
逆浸透現象を利用したRO膜 https://kcr.kurita.co.jp/wtschool/008.html -
セイスイ工業株式会社 水処理とは?種類や仕組みの基礎知識を解説
https://seisui-kk.com/column/ew4k9j5kz -
室町ケミカル
https://www.muro-chem.co.jp/media/knowledge/edi