水トリーとは、高圧電力ケーブルの絶縁体に樹枝状の亀裂が発生し、ケーブルの絶縁性能を低下させる現象です。水トリーから絶縁破壊につながり、大きな事故になる場合もあります。この記事では水トリーの原因や対策などについて紹介します。
水トリーとは
水トリーとは、高圧電力ケーブル(CVケーブル)の絶縁に使われる架橋ポリエチレン(CV)などに、水と交流電界の影響で小さな亀裂が発生し、それがまるで木の枝のように進行していく現象です。その亀裂の形状からtreeと名付けられ、トリーとよばれるようになりました。
トリーには水トリーだけでなく電気トリーもあります。どちらも絶縁体の中に樹枝状に成長していく亀裂を意味しますが、電気トリーは局部的高電界部から生じるものです。一方で水トリーは水に接している部分から、水に由来して発生するのが特徴です。
水トリーは 0.1〜1〔μm〕の無数の水滴の集合体であるため、周辺の絶縁体に比べて導電性が高くなります。そのため水トリーが発生すると、ケーブルの絶縁性能は大きく低下します。放置すれば、絶縁破壊事故の原因にもなるのです。
通常、水トリーが発生するようなケーブルは6600Vなどの高電圧の電気を流すためのケーブルです。そのため、絶縁破壊事故が発生すると高圧地絡に発展します。結果、ケーブルが使われている設備全域が停電したり、もっとひどい場合には周辺地域まで巻き込んだ停電になったりするケースもあります。
そうなると、周辺地域に与えた影響に対して損害賠償を求められる可能性もあります。ですから、高圧電力ケーブルに水トリーが発生していないか確認したり、水トリーが発生しないように対策したりすることが必要になるのです。
水トリー現象の分類
水トリー現象は、発生場所によって3つの種類に分けられます。
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内導水トリー: 内導水トリーはまず、ケーブル内部の、導体と絶縁部の間にある半導電層に発生します。そうして発生した突起から外部の絶縁部に侵食していきます。内部の半導電層から木が生えていくように枝分かれしながら進行します。
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外導水トリー: 外導水トリーはまず、ケーブルの外部半導電層に発生します。その突起から内部の絶縁部に侵食していきます。
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ボウタイ状水トリー: ボウタイ状に絶縁物中に発生する水トリーです。内部の一点から複数の方向に向かって亀裂が進んでいく様子をボウタイに例えています。ボウタイ状水トリーの発生原因は、絶縁部である架橋ポリエチレンの製造過程でできるわずかな隙間(ボイド)で、そこから侵食をはじめます。
内導水トリーと外導水トリーは、半導電層のわずかな突起物が起点となり発生します。特に半導電層に導電性テープを用いた場合に発生が多く、これは導電性テープを構成する布のけば立ちなどが原因になるためです。
一方でボウタイ状水トリーは、絶縁体中の気泡(ボイド)や異物を起点として発生します。そのためボウタイ状水トリーを防ぐためには、絶縁体を成形する際に気泡や異物が混入しないようにすることが必要です。
水トリー現象が発生するとケーブルの絶縁性能が著しく低下します。さらに水トリーが発生しているケーブルを放置すると、亀裂が成長していき絶縁体にピンホールが発生します。すると導体と遮蔽(しゃへい)層がピンホールによって導通し、地絡事故につながってしまいます。
水トリー現象の発生原因
水トリーの発生原因は次の3つです。
- 隙間: 製造過程で混入した異物や気泡、ケーブルの外傷や繰り返し応力による隙間
- 水気: ケーブルが水に浸っていると絶縁層内に水滴が発生しやすくなる
- 電界: 回路の開閉サージや雷サージなど、系統に発生する異常電圧
水トリー現象はケーブルの絶縁体の中に発生した隙間や、導体、半導電層、絶縁層の各層の隙間に、水気や電界が影響を及ぼして発生します。
これらの隙間は、ケーブルの製造工程で絶縁体中に混入する異物や気泡、半導電層と絶縁体間の層ばなれによって発生します。またケーブルを設置する際には、工事中にケーブルにストレスがかかることにより、絶縁体や各層の間にクラックが生じることによって発生します。
これらの隙間には、ケーブルに通電させた際に、高い電圧ではないものの部分放電(コロナ放電)が発生します。ケーブルを長期間使用し、放電が繰り返されることにより絶縁体が侵食されます。
またこのとき、架橋ポリエチレンケーブルの絶縁体中に水が浸入したり、ポリエチレン層に異物が混入、または隙間、突起などが発生したりすると、その部分で電界の変化が発生します。そして放電と電界の相乗作用により破壊が進み、トリーとよばれる形状へと成長していくのです。
近年では、絶縁層と内、外半導電層の3層を同時押出法により作るようになり、内導水トリーと外導水トリーはほとんど発生しないようになりました。
水トリー現象の対策
水トリー現象を防ぐためには、水トリーを発生させる3つの要因を避ける必要があります。具体的には次のような対策が有効です。
- EEケーブルを使う: 絶縁体である樹脂部分に異物が混入する可能性が低くなる
- ケーブルを水に浸さない: ケーブルの隙間に水滴を発生させない、結露させない
- 電源遮断操作に留意する: 開閉サージを発生させないよう、電流が流れている状態で回路を遮断しない
水トリーは、これらの対策を行っていれば必ず防げるというものではありません。使用する環境や経年により発生する可能があります。水トリーは地絡事故につながる前に発見し対策する必要があります。
水トリーの検査には、ケーブル絶縁体に印加する電圧と検出される漏れ電流から水トリーを検出する直流漏れ電流法と、接地線に商用周波数の2倍+1Hz、50Vの電圧を印加し、水トリー部に流れる信号をキャッチする交流重畳法があります。
- 注意:水トリーの発生について
- 水トリーが主に問題になるのは、キロボルトオーダーで使われる高電圧送電ケーブルで、ポリエチレン (PE) や架橋ポリエチレン (XLPE) などの絶縁材料が使われ、10年以上経過したケーブルです。ただし、水トリーの発生は、使用条件や環境条件により変わります。ご確認が必要な場合、ケーブルメーカーにお問合せ下さい。