トランス(変圧器)とは
トランス(変圧器)とは、電圧を変えるために使われるものです。電圧を下げるものをダウントランス(降圧トランス)、上げるものをアップトランス(昇圧トランス)といい、トランスの中でも、電圧を上げ下げできるものをアップダウントランスと呼びます。
トランスはさまざまな場所に使われています。身近なところではACアダプタにトランスが内蔵されています。
では、なぜトランスを使って電圧を変える必要があるのでしょうか?
電気は、低い電圧よりも高い電圧のほうが効率よく供給できます。送電中に電線の抵抗などにより消費される電力損失は、電線に流れる電流の2乗に比例します。同じ電力を送るならば、高い電圧のほうが電流を減らせるため、電力損失も少なくなるのです。そのため、発電所で作られた電気は50万Vや20万Vといった高い電圧で送られます。
家庭で使われる電気は一般的に100V、工場や大規模商業施設などに送られる電気は6万Vなど、電気は送電先となる変電所や変電設備などを使って必要な電圧に変換され、それぞれの施設に送られています。発電所から送られてくる交流電流は、トランスを用いれば簡単に電圧を変えられるため、このようなシステムが可能なのです。
また、電子機器を動かすのに必要な電圧は、機器によって異なります。たとえばスマートフォンやタブレットなどの充電は2022年現在では5Vが主流です。しかし一般的な家庭用電源の電圧は100Vであるため、コンセントから充電する場合には電圧を変更しなければいけません。このような場合にもトランスが使われています。
パソコンなどの電子機器に必要なACアダプタも同様に、それぞれの機器を動かすために適した電圧に変更するためにトランスを内蔵しています。
トランスの重要な役割の一つに絶縁があります。詳しい構造は後述しますが、トランスは一般的に電流から磁力を作り出し、その磁力を使い、ファラデーの電磁誘導法則によって電気を伝えるため、入力側と出力側の導線がつながっていません。そのため異常な電流が流れるのを防いだり、出力側に繋がれた電気機器が絶縁不良を起こしてたりしても感電や漏電を防げます。絶縁トランスは医療用コンセントや回路の遮断防止などに使用されています。
まとめると、トランスを利用する目的は、大きく分けて次の3つになります。
- • 発電所からの送電効率を上げるため
- • 電気機器を動かすため
- • 絶縁のため
トランスの基本構造は、鉄心(コア)に一次コイルと二次コイルが巻き付けられた形です。この一次コイルと二次コイルは、電気的に接続されていません。一次コイルに流れる電流が変化すると、磁界の変化が発生します。この磁界の方向と強さ(磁束)が二次コイルの中を通ると、二次コイルに誘導起電力が発生します。
このとき二次コイルに流れる電気の電圧は、V1/V2=N1/N2になるため一次コイルと二次コイルの巻き数によって電圧が変換できるのです。コイル巻枠をボビン、コイルの電線をマグネットワイヤ、コイルの中を貫く鉄心をコアといいます。
ワイヤレス充電の中にもトランスと同じような原理を利用し、誘導起電力を用いて電力を供給しているものもあります。
トランスは交流電圧を変えるために使われるものであり、直流電流をそのまま流してもトランスとしては使えません。トランスに直流電流をそのまま印加すると、コアが電磁石になってしまって極性が変化せず、二次コイルを貫く磁束も変化しなくなってしまいます。そのため電磁誘導が発生せず、二次電流も発生しません。
トランスにはコイルが使われていますが、トランスとコイルの差は何でしょうか?実はコイルという言葉のほうが広い意味を持ちます。コイルの種類の一つにトランスがあるイメージです。コイルの中でも電圧を変換する機能を持っているのがトランスなのです。
トランスの構造による分類
トランスには複数の分類方法があります。そのうちの一つが、コイルと鉄心の位置関係によるものです。この分類では、トランスは内鉄型と外鉄型に分けられます。内鉄型では鉄心がコイルに覆われていいますが、外鉄型では鉄心がコイルを覆う形になりコイルの外側に鉄心があります。
トランスの分類方法は他にも、対応している電気の電圧や相数、トランスの冷却方式、タップの切りかえ方式などがあります。
また、トランスに使用されるコアは形状によりEIコア、EEコア、EERコア、PQコア、トロイダルコア、Rコア、UUコアなどの種類に分類されます。
トランスの電圧による分類と用途...
トランスは対応する電圧によっても分類可能です。中でも特に高圧に対応しているトランスは次のように分類でき、対応する電圧と使われる場所は次のようになっています。
- • 超高圧変圧器(11万V以上):発電所、変電所
- • 特高変圧器(2万V~11万V):大規模な工事現場、電気設備試験場
- • 高圧変圧器(6,600V~2万V):工場、病院、商業施設
超高圧変圧器や特高変圧器は、屋外のフェンスに囲まれた施設に置かれています。近づくだけでも感電の危険がある設備になるため、基本的に人気の少ない場所に作られます。
高圧変圧器は、電力消費の多い大規模な施設に電力を供給するための変圧器です。施設の屋上や外壁沿いなどに設置されることが多く、キュービクルという高圧受電施設に組み込まれています。
続いてトランスでよく使われる代表的な用語を解説します。
電源トランス(低周波トランス、商用周波変圧器)
一般的なコンセントから得られる電気50Hzや60Hzの交流電流を、電気機器を動かすのに適した電圧に変換するトランスです。
高周波トランス
無線通信など通信用に使われる高い周波数の電気やスイッチング電源などに用いられるトランスです。
スイッチングトランス(スイッチング電源用トランス)
直流の電圧を変換する際に使用するトランスです。直流をスイッチングにより高周波のパルスに変え、これをトランスに流すことで擬似的な交流のように電磁誘導を発生させ、電圧を変換します。
ノイズカットトランス
トランスの絶縁の機能を使い、ノイズの元とノイズを受ける側の回路を分離し、ノイズが伝わらないようにするトランスです。
テスラコイル
ニコラ・テスラによって考案された、高周波、高電圧を発生させるためのコイルです。二次コイルの共振を利用します。
チョークコイル(チョークトランス)
電源回路に使われるインダクタ(コイル)の一種で、電源ラインのノイズフィルターとして使われます。PWMなどで制御すると電圧を降圧・昇圧できます。
インバータトランス
直流電流を昇圧させるためのトランスです。直流電流を一度、交流電流に変換し、電圧を変換します。
参考資料
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