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技術コラム

 
電子冷熱とは?ペルチェ素子の原理と活用方法の解説|松定プレシジョン

電子冷熱とは

電子冷熱とは、ペルチェ素子を用いた電子的な冷却です。従来、冷やす仕組みにはヒートポンプ(コンプレッサー)が使われてきました。

これは冷媒をコンプレッサーで圧縮した後、減圧する際に温度が下がるのを利用したもので、仕組みは機械的なものです。コンプレッサーを用いたヒートポンプはエアコンや冷蔵庫など多くの場所で使われています。

一方、電子冷熱はペルチェ素子という半導体に電気を流すだけの、非常に単純な仕組みから成り立っています。さらに電流の向きを変えるだけで、加熱と冷却が切り替えられるのも大きな特徴です。

もちろんヒートポンプも減圧側ではなく圧縮側の熱を利用することで、加熱にも利用できます。エアコンが冷却も加熱もできるのはこのためです。しかし電流の向きを変えるだけの電子冷熱に比べ、仕組みが大がかりになり、装置が大きくなってしまいます。

ペルチェ素子とは

電子冷熱に使われるペルチェ素子とは、半導体の一種で、ある方向に直流電流を流すと、素子の上面で吸熱(冷却)し、下面で発熱(加熱)する性質を持つものです。

ペルチェ素子の発見は意外に早く、1834年にフランスの物理学者ジャン・シャルル・ペルチェ(J.C.Peltier)によって発見されました。しかし実用化されたのは、半導体が多く使われるようになった1950年代に入ってからです。

ペルチェ効果の原理

ペルチェ素子の原理を解説する前に、まずゼーベック効果について述べておきます。

ゼーベック効果とは、ある物質の両端に温度差があると、その間に起電力が発生する効果です。物質が加熱されると、負の電荷を持った電子または正の電荷を持った正孔であるキャリアが発生します。

しかしこの時に加熱されるのが物質の片端のみであった場合、他端にはキャリアが発生しないため、内部の均衡を取ろうと加熱側から冷却側にキャリアが移動します。これがゼーベック効果による起電力です。

この原理は熱電対にも利用されています。ゼーベック効果は全ての材料で発生しますが、一部の半導体材料において強く発生します。特にキャリアが電子の物質と正孔の物質を直列接続すると大きな電力になります。

つまり、P型半導体とN型半導体を直列に接続した形です。ゼーベック効果によって電力を得る際には、P型半導体とN型半導体を交互に直列につなぎ、より多くの電力を得られるようにしています。

ペルチェ素子の原理は、ゼーベック効果の逆です。物質に電流を流すと、キャリアの均衡を取るために物質の片端で発熱が、他端で吸熱が発生するのです。電流の向きを変えるだけで、冷却と加熱が切り替えられるのはこのためです。

ゼーベック効果同様、全ての材料で発生しますが、N型半導体、金属、P型半導体の順で接続されたものが特に効率よく吸熱と発熱を行います。電流が流れていない時は、金属の中に存在する自由電子がフェルミの分布関数により、P型半導体とN型半導体の間に分布しています。

しかしここに電流が流れると、フェルミ関数の傾きがゆるやかになるため、温度が下がるのです。

ペルチェ効果の原理|松定プレシジョン

ペルチェ素子の特徴

ペルチェ素子には次のような特徴があります。

  • 電流の向きを変えると冷却と加熱ができる
  • 温度応答性に優れる
  • 温度調整が正確

電流の向きを変えるだけで冷却と加熱を切り替えられるのはペルチェ素子の大きな特徴の一つです。またそれ以外にも、温度応答性が高く、正確な温度調整ができることも挙げられます。さらに他の部品などを使用せず、素子そのものが吸熱と発熱を行うため効率が高く、省エネにもつながります。

ペルチェ素子とヒートポンプ(コンプレッサー)との違い

  • フロンなどのガス(冷媒)が要らない
  • 騒音や振動がない
  • 小さく、部品も少ない
  • ペルチェ素子はヒートポンプに比べると出力が弱い

ヒートポンプは冷媒の圧縮と減圧を利用して加熱と冷却を行います。しかし、かつて冷媒にはフロンガスが使われていたため、オゾン層の破壊につながりました。その後、代替フロンが使われるようになりましたが、代替フロンには温暖化への影響が大きいという問題があります。

ペルチェ素子は冷媒を必要としないため、このような環境破壊を起こさないのが特徴です。またコンプレッサーやそれを動かすモーターも必要としないため、騒音や振動もありません。さらに素子そのものが吸熱、発熱を行うため、ヒートポンプのように多くの部品を必要とせず、小さくできるのも特徴です。

一方で、現時点においてペルチェ素子はヒートポンプに比べると出力が低いケースが多く、大規模な冷却や加熱においてはヒートポンプに軍配が上がります。

ペルチェ素子の用途

ペルチェ素子の用途は大きく3つ、生活分野、計測分野、医療分野に分けられます。

生活分野

  • 小型冷蔵庫
  • パソコンのCPU/GPUの冷却
  • ウェアラブルなエアコン

小さいだけでなく、振動や騒音も少ないため、ホテルの個室に置かれるような小型の冷蔵庫には、ペルチェ素子が活用されるケースもあります。またパソコンなどの電子機器においては加熱しやすいCPUやGPUの冷却にも使用されます。

さらに近年需要が伸びているのはウェアラブルなエアコンの分野です。熱中症防止のためのネッククーラーや衣類の中に涼しい風を送り込む空調服では、ペルチェ素子を利用したウェアラブルエアコンが使われるケースがあります。小型軽量で、バッテリーからの電力でも長時間作動できます。

計測分野

  • 計測機器などに使われるセンサーやレーザー発振器の冷却
  • 制御盤の冷却
  • 恒温槽の加熱、冷却

計測機器においては主に、X線や電子、赤外線、光、画像などの検出器が熱雑音を検知しないための冷却に使われます。またレーザー発振器においても発振部分の冷却に使われます。小型で振動が少ないので、このような精密な機械に対しても冷却が行えるためです。

さらにペルチェ素子を2重、3重に重ねて使うことで-10℃台までの、より強い冷却が可能になっています。他にも制御盤の冷却、細かい温度設定が欠かせない恒温槽の加熱や冷却にも活用されています。

医療分野

  • PCR検査用の機器

医療分野におけるペルチェ素子で注目を集めたのが、PCR検査用の機器です。検査に必要な温度の上げ下げ操作において、温度応答性に優れる点や温度調整が正確な点などの理由で活用されています。