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技術コラム

 
陽子線、重粒子線とは?陽子線と重粒子線の違いも解説|松定プレシジョン

陽子線とは

陽子線とは、水素の原子核を使用した放射線の一種です。水素の原子は、1個の陽子と1個の電子で構成されています。この水素の原子から電子を取り除き、加速させたものが陽子線です。

陽子線は放射線の中でも粒子線に分類されています。粒子線の分類方法にはいくつかのパターンがあるため、陽子線も重粒子線に含まれる場合もあります。しかし日本国内において、がん治療における重粒子線は、基本的に炭素イオン線を意味するため、陽子線は重粒子線には含まれません。

重粒子線とは

重粒子線とは、粒子線に分類される放射線の一種です。広義には電子より重いすべての粒子線を意味しますが、がん治療で重粒子線として用いられるのは、炭素イオン線です。炭素イオン線とは炭素の原子核を加速させたもので、陽子6つと中性子6つで構成されたものです。炭素原子と異なり、電子は伴っていません。

がん治療における重粒子線の定義は国によって多少異なります。そのため電子よりも重い陽子線も重粒子線に含まれるケースもあります。しかし日本の重粒子線医学においては、ヘリウム(He)より重い原子番号を持つ原子の原子核(重イオン)から作られたビームを指しており、中でも炭素の原子核によるビームを重粒子線と呼んでいます。

陽子線と重粒子線の元素核の違い|松定プレシジョン

陽子線と重粒子線との違い

陽子線も重粒子線もどちらも原子核からなる粒子線です。しかし陽子線は水素の原子核であるのに対し、重粒子線は炭素の原子核です。原子量が異なるため、陽子線は陽子1個なのに対し、重粒子線では陽子6個と中性子6個になります。つまり粒子の重さが異なります。

がん治療においては、陽子線も重粒子線も、それぞれの原子核を加速させて患部に照射します。粒子線は、身体の中に入って止まるときに大きなエネルギーを発生させ、がん細胞を破壊します。このとき患者は痛みや熱を感じることはありません。原子核の質量が異なれば運動エネルギーも変わるため、放射線としてのエネルギーも異なります。

陽子線の原子核の方が軽いため、重粒子線に比べるとエネルギーは低いです。従来の放射線治療に使われてきたX線に比べて、1.2倍程度のエネルギーしか持ちませんが、身体の中に部分的に照射できるのが特徴です。また重粒子線よりも患部の周囲への影響が少ないため、重粒子線に比べると広範囲のがん細胞に適用できます。

一方で重粒子線は、原子核が重くなる分、高いエネルギーを持ちます。そのためがん細胞を破壊する力も強くなり、従来の放射線治療では破壊しにくかった骨肉腫や骨軟部腫瘍などの治療にも効果が期待できます。しかし同時に、周囲の健康な細胞に影響する可能性も高いため、治療部位が限られるケースもあります。

陽子線と重粒子線に共通する項目もあります。例えば陽子線も重粒子線も、発生させる際には非常に大きな装置が必要です。どちらもイオン源から発生させた原子核を、リニアック(直線加速器)やシンクロトロンなどの加速器で加速させて患部に照射します。また患部に適切な角度で照射するため、照射装置や患者を回転させるガントリーという装置が使用されることもあります。

陽子線、重粒子線と他の放射線の違い

陽子線や重粒子線は粒子線に分類される放射線の一種です。粒子線とは、放射性物質から放出される放射線の中でも粒子が放出されるものをいいます。

放射線には、γ線やX線などの電磁波と、α線やβ線、中性子線などの粒子線があります。α線はヘリウムの原子核、β線は電子で、これらはプラスやマイナスの電荷を持った荷電粒子です。陽子線や重粒子線(炭素の原子核)は、荷電粒子の粒子線に分類されています。一方で中性子線は電荷を持たないため非荷電粒子になります。

放射線
(電離放射線)
電磁放射線 光子 X線、γ線
粒子放射線 荷電粒子 α線、β線、電子線、陽子線、重粒子線
非荷電粒子 中性子線

がん治療においては、X線は1950年頃という比較的早い段階から深部X線治療装置といった形で実用化されていました。その後、リニアックの開発により、放射線治療としてより適した形で使用できるようになりました。

X線は近年、サイバーナイフという定位放射線治療装置にも利用されています。これはロボット誘導型定位放射線治療器とも呼ばれ、高度なロボット制御技術により複数の角度から放射線を照射できるものです。

またサイバーナイフでは、X線透視撮影を利用して患者の動きをモニターしながら照射を行えるため、患者を強く固定する必要が少ないのも特徴です。

X線と同様に電磁波に分類される放射線では、γ線もガンマナイフとして放射線治療に利用されています。γ線の細いビームが約200個、患部の小さな領域に集合するように作られています。

陽子線や重粒子線を用いたがん治療の場合、X線やγ線を用いたがん治療に比べ、粒子線用の加速器が大型で高価になります。

一方で病巣に合わせて放射線を集中させやすいことや、身体の中を進んでいく際に減衰しにくく、粒子が停止する直前に最大のエネルギーを発生するブラッグピークが存在するため、深部のがんの治療が行いやすいなどの特徴があります。有効な治療方法ですが、大掛かりな設備が必要な為、陽子線と重粒子線を合わせても日本国内では二十数か所程度の設置にとどまります。近年では、レーザー・プラズマ加速を用いた重粒子加速の小型化などが研究されています。今後の小型化や普及が期待されています。