試験機器のなかには、商用AC100Vの電圧を昇圧して、高電圧を発生させる必要のある機器があります。また、電気自動車では、モーターの高電圧化に伴い、インバータやバッテリーの回路が高電圧化されています。身近な高電圧機器としては、レントゲン装置(X線撮影装置)が挙げられます。医療用のレントゲン装置や分析装置で使われるX線管は真空管の一種で、一定時間使用すると交換の必要があります。X線管と高電圧の電源は、交換しやすいよう高電圧コネクタで接続されています。このように、理化学機器などで用いられる高電圧デバイスの接続には、使いやすさやメンテナンス性向上のため、高電圧コネクタを用いるのが一般的です。
高電圧回路でも安心して使える安全性を兼ね備えた、高電圧コネクタの種類と使用上の注意点について解説します。
高電圧に使うコネクタの特徴
高電圧コネクタなら、高電圧配線を簡単に取り付け/取り外しできますので、通常の配線接続のようなねじ留めを行う必要がありません。したがって高電圧デバイス(X線管、PMT、ピエゾ、MCP、電子ビーム、イオンビームなど)の変更や交換、装置の移動や配置換えが手軽に行えます。実験装置や設備、工場の生産ラインなどでの条件変更や移動に高電圧コネクタを用いることで、配線接続を早く、簡単にできます。
高電圧コネクタの種類とその概要
高電圧コネクタといっても多くの種類があります。通常の電力として入出力するための電力用高電圧コネクタや、医療や理化学用途で高電圧を使用する場合など、高電圧の用途はさまざまです。高電圧の電気を電源からデバイスに送るための配線を接続する場合に簡単に脱着ができるよう使われるのが、高電圧コネクタです。高電圧コネクタは、高電圧ケーブルの種類に応じて大きく3種類に分類できます。
- ●高電圧ケーブル(ノンシールド)用高電圧コネクタ
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シールドのない単芯の高電圧ケーブルで、高電圧シリコンケーブルや、高電圧テフロンケーブルに用いられる高電圧コネクタ。一般的な規格はなく、高電圧デバイスやコネクタメーカー独自の専用コネクタが使われています。
- ●高電圧同軸ケーブル用高電圧コネクタ
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シールドのある単芯の同軸ケーブルに使用される高電圧のコネクタで、BNCやMHV、SHVと呼ばれるコネクタが使われています。他にも、あまり高い電圧には使えませんが、SMAやSMB、SMCといった同軸ケーブル用のコネクタが使われることもあります。また、特定の用途においてデファクトスタンダードとして使われている、コネクタメーカー独自の高電圧コネクタもあります。
- ●高電圧多芯ケーブル用高電圧コネクタ
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X線管や電子ビーム、イオンビームなどには多芯の高電圧ケーブルが使われ、医療用のX線装置では、コネクタがJISなどで規格化されています。
一般的な高電圧コネクタには、以下のような種類のものがあります。
MHV(Miniature High Voltage)
「MHV」は、BNC-HV(BNC High-voltage)とも呼ばれ、高電圧同軸ケーブルと各種機器とを接続するために用いられる高電圧コネクタです。
高周波の電力を送る場合、同軸ケーブルやコネクタの特性インピーダンスが異なる接続を行うと電気をうまく送ることができません。そのため、同軸ケーブルとコネクタはインピーダンスを合わせて適切に接続する必要があります。
MHVコネクタは、外見はBNCコネクタとよく似たコネクタですが、BNCコネクタよりも高電圧で用いることができます。MHVコネクタは、一見BNCコネクタに接続できるように思えますが、コネクタの突起などが異なるため、相互の接続はできません。(無理をすれば接続できてしまうため、MHVを使用禁止にしている事業所もあります)
SHV (Safe High Voltage)
「SHV」コネクタは、MHVコネクタよりも高い電圧で使うことができる同軸ケーブル用の高電圧コネクタです。SHVコネクタのプラグは、同軸部分の中心部を取り巻く絶縁材が中心の電極よりも飛び出すような形で、中心のコンタクトと外部導体のシールドの沿面距離が長くなる構造となっています。
このため、MHVやBNCコネクタ用の接続口には接続ができません。
同軸ケーブルの高電圧コネクタまとめ
高電圧の同軸ケーブルには、BNCコネクタやMHVコネクタ、SHVコネクタの他にもHNコネクタやメーカー独自のコネクタがあります。以下に仕様をまとめました。スペックに関しては、メーカーにより仕様が異なる場合があるので確認してご使用ください。同軸ケーブルの高電圧コネクタは、プローブ式のサーベイメーター(放射線検出器)で、プローブと本体を同軸ケーブルで接続する際などに使われています。
形式 | BNC | MHV | SHV | HN |
---|---|---|---|---|
定格電圧 ※ | 500Vrms | 1600Vrms | 3500Vrms | 1500Vrms |
インピーダンス | 50Ω | 50Ω | 50Ω | 50Ω |
周波数 | DC~4GHz | DC~300MHz | DC~300MHz | DC-4GHz |
バヨネット | バヨネット | バヨネット | ネジ式 | |
規格 | JIS-C-5412, MIL-C-3608, MIL-C-39012 |
MIL-C-39012 | MIL-C-39012 | MIL-C-3643 |
使用上の注意
MHVコネクタの形状は、BNCコネクタと非常によく似ています。間違えないように注意してください。
※定格電圧は規格値です。規格値を超える定格電圧のコネクタが市販されています。
松定プレシジョンでは、定格電圧の高いMHVコネクタとSHVコネクタを、規格の電圧値以上の高電圧を出力する製品に使用しています。市販のNHVコネクタやSHVコネクタ、同軸ケーブルを使用される際は、耐電圧などのスペックにご注意下さい。
弊社にて、MHVコネクタ付ケーブル、SHVコネクタ付ケーブルを販売しております。
X線機器で使用されている高電圧コネクタの規格
多くの規格がコネクタメーカー独自の規格で販売されている中、医療用のレントゲン撮影に使用されるX線発生装置ではJIS Z4731により規格化されています。
コンタクタの数によって3極タイプと4極タイプに大別され、それぞれに合った高電圧コネクタが接続されています。3極の場合は、それぞれの端子は、C(コモン)、L(大焦点用フィラメント)、S(小焦点用フィラメント)と決められています。4極の場合は、G(グリッド電極)が加わります。医療用X線装置のコネクタは、プラグがストレートで、差し間違いを防止するための突起があります。
世界的には、フェデラルスタンダードと呼ばれる同様のコネクタが使用されています。
工業用のX線分析装置などでは、高電圧プラグが円錐状になったR24やR10、R30と呼ばれる高電圧コネクタが使用されています。先端部分に同心円の3つの電極があり、プラグに方向はありません。R10は100kVまで、R24は160 kVまで、R30は210 kVまでの電圧で使用されます。
高電圧コネクタのメンテナンスや使用上の注意
高電圧の電気を使う際には、低圧以上に安全には気を付けなければならないということが大きな注意点であるといえます。高電圧の電気の危険性は、商用の100Vとは比べものになりません。そのため、電極部が露出していないかよく確認する必要があります。高電圧コネクタの差し込み状況によっては、配線同士が接触して短絡を起こすことがあります。コネクタの端子に曲がりや変形がないか、定期的なメンテナンス時や接続前に十分確認する必要があるでしょう。
規格が異なっても、無理に差し込むと接続できてしまうようなコネクタもあります。形状が似ていると、こういう状況が発生しがちです。また、複数のコネクタがある場合、配線間違いを起こしてしまうこともあります。この場合も、高電圧回路の短絡や誤配線となると機器の全壊につながるような故障を起こしかねません。
また、プラグやリセプタクルの表面が汚れてくると、高電圧の特性により沿面放電が起こることがあります。絶縁不良などを防ぐため、コネクタは定期的な清掃が必要です。R24タイプのコネクタでは、グリスを使用しているため定期的にグリスアップを行う必要があります。
他にも、高電圧ケーブルやコネクタに鋭利な金属くずが付くと、絶縁部分に穴が開きショートしてしまうことがあります。付近に燃えやすい物などがあると火災の原因にもなりかねません。高電圧は多くのエネルギーを効率よく伝送できるのですが、万一、接続間違いや短絡を起こすとその影響は大きくなってしまうので、そうしたトラブルが発生しないよう対策する必要があります。
これからEV向けに高電圧コネクタの需要が増加
同じ電力を使用する場合、高電圧にすると電流を抑えられます。電流が少なければ、回路に使う導体の量を減らすことができるので、軽量化や発熱の抑止につながります。一方で、高電圧は電流が少なくなる代わりに、プラスとマイナスの線が近づいただけで空気中の不純物を伝ってショートするリスクが高くなります。高電圧の電気を使う場合、配線の適切な離隔距離などが重要な設計要素です。低圧配線と同じようにはいかないケースが出てきます。こうした高電圧の制約を理解しつつ、電流が少なく、多くの電力を送ることができる高電圧のメリットを生かすようにする必要があります。
ハイブリッド車やEV車では、従来の12Vや24Vの鉛蓄電池の配線と区別するために、高電圧の回路をオレンジ色のケーブルにして識別しやすくしています。リチウムイオンバッテリーやモーター、インバータ、車載充電器などの配線にオレンジ色のケーブルが使用されています。
電気自動車(EV)は今後、脱炭素社会に向けて全世界的に普及が進むと考えられます。電気自動車のバッテリー充電時間は、充電器の容量が大きければ短くなります。高電圧回路を使うと、充電電流を抑えることができ、充電器や電気自動車の材料の使用量 を減らすことができます。そのため今後は電気自動車の充電用として、高電圧コネクタの需要はかなり増えていくと考えられます。高電圧の同軸ケーブルは現在、充電用途ではありませんが、充電と同時に情報伝送を行うなど、今後はいままで想定していなかった活用方法なども出てくるのではないでしょうか。
高電圧コネクタのメーカー
高電圧コネクタを製造する主なメーカーを紹介します。さまざまな種類の高電圧コネクタを製造するメーカーが多くの製品を販売しています。
松定プレシジョン
高圧電源メーカー独自の高電圧コネクタを製造しています。各電圧毎に安全で信頼性の高いコネクタを規格化しています。
松定プレシジョンの高電圧コネクタと高電圧ケーブルは、こちらのページをご覧ください。
トーコネ https://www.to-conne.co.jp/
MHV・SHVなどの同軸ケーブル用コネクタ、ハーネスのメーカー
多治見無線電機株式会社 https://ssl.tajimi.co.jp/
同軸ケーブルや光ケーブルのコネクタ専門メーカーです。高電圧の同軸ケーブル用コネクタも製造しています。
LEMO https://www.lemo.co.jp/
スイスのコネクタメーカーです。丸形コネクタを専門に製造しており、簡単にワンタッチで嵌合とリリースが可能な、独自のプッシュプルセルフラッチングシステムを採用しています。
Amphenol https://www.amphenol.co.jp/
アメリカのコネティカット州にあるコネクタ専門メーカーです。
航空宇宙分野や情報通信分野、EV車用など非常に多種のコネクタを製造しています。
Dielectric Sciences, Inc. https://www.dielectricsciences.com/
アメリカのマサチューセッツ州にある高電圧コネクタのメーカーです。
X線装置向けの高電圧コネクタも製造しています。
GES https://www.ges-highvoltage.com/
ドイツの高電圧コネクタ専業メーカーです。最大でDC100KVを扱える製品をそろえ、半導体製造装置やサイクロトロンなどの用途に向けた、シングルまたはマルチピンの多様な高電圧コネクタを製造しています。
矢崎総業株式会社 https://www.yazaki-group.com/
主に自動車用の高電圧回路に使う高電圧コネクタを製造、販売しているメーカーです。
関連製品
松定プレシジョンでは、ケーブルの断線やコネクタのコンタクト等をチェックできるX線非破壊検査装置のラインナップがあります。