イオンポンプの仕組み
イオンポンプは、超高真空を作り出すために使用される真空ポンプの一種です。スパッタイオンポンプやノーブルポンプとも呼ばれています。イオンポンプをはじめとする真空ポンプには、次のような種類があります。
低真空領域 | 高真空領域 | |
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ポンプの種類 | ロータリーポンプ ダイアフラムポンプ スクロールポンプ |
イオンポンプ ターボ分子ポンプ クライオポンプ 油拡散ポンプ |
流体 | 粘性流 | 分子流 |
コンダクタンスの影響 | 小 | 大 |
排気径 | 小 | 大 |
フランジ例 | NW16-40 | ICF70-406 |
イオンポンプは強力な磁石とハニカム構造の陽極(アノードアレイ)、陽極を挟むように配置されたチタン製の陰極(カソード)で構成されています。そのためロータリーポンプのような機械可動部を持たないのが特徴です。
磁場中で冷陰極放電を起こすと、電極から放出された電子は磁場の作用によりらせん状に運動しながら陰極の間を往復します。
その際、電子が気体分子に衝突すると、気体分子は電離してイオンになります。このイオンが陰極に衝突すると、陰極の表面にあるチタン原子をスパッタ(叩き出し)し、陰極のなかに埋め込まれるのです。
さらにこのとき、スパッタされたチタン原子は陽極や陰極、ポンプの内壁などにゲッタ膜とよばれる清浄なチタンの膜を生成します。スパッタされたチタンの原子は化学的に活性なため、膜を生成する際に、周囲の気体分子を吸着していきます。
水素や酸素、窒素や一酸化炭素などの気体の他、ヘリウムのような不活性気体もイオン化されるため、陰極に埋め込まれたりチタン原子に吸着されたりするのが特徴です。そのため、周囲にある気体分子が減少します。このようにして真空状態を作り出すのがイオンポンプです。
①高電圧によりチタン陰極より電子が飛び出しせん状に運動しながら陰極の間を往復します。 ②電子が気体分子に衝突し、気体分子は電離してイオンになります。 ③イオンは、チタン陰極に衝突しチタン原子をスパッタ(叩き出し)し、陰極のなかに埋め込まれます。 ④さらに、スパッタされたチタン原子はゲッタ膜とよばれるチタン膜を生成し気体分子を吸着します。
水を送る渦巻きポンプなどのように、機械的な仕組みによって空気を送り出すというよりも、その場にある空気を化学的に反応させ、消費してしまうことで真空を作り出しています。
水面に伏せた瓶の中でロウソクを燃やすと、消費された酸素の分だけ水が吸い上げられるという小学校の理科の実験をイメージすると、イオンポンプの仕組みが想像しやすくなるでしょう。気体がなくなってくると、陽極と陰極の間の電気抵抗が上昇します。それにより電流が止まり、排気の完了が確認できます。
イオンポンプは、気体の種類にかかわらず、高い真空度を実現できるのが特徴です。そのため、透過電子顕微鏡や電子線描画装置、加速器の他、半導体製造装置などに使用されています。
イオンポンプの特徴
イオンポンプのメリットとデメリットには次のようなものがあります。
- 陽極と陰極、磁場という簡単な構成で機械的な可動部を持たない
- 機械的振動や騒音がなく、他の機器の動作に影響を与えない
- 機械的可動部がないので故障しにくい
- 超高真空(10-10Pa)を達成できる
- 真空を達成すると自動的に停止するため、真空計が必要ない
- ロータリーポンプや油拡散ポンプと異なり、オイルを使用しない
- 急な停止時にも被排気系を汚染せず、無人運転にも適している
- 電源のみで使用できるため、取り付け姿勢や方法を選ばない
- 気圧が下がるのに従い消費電力も下がるため、省エネである
- 陽極と陰極の間で冷陰極放電を行うため、高電圧を使う
- 大流量のガスの排気が難しく、高真空(1Pa前後)からしか使用できない
- あらかじめ吸気を行う粗引きが必要なため、他のポンプの併用が必要である
- ポンプ内に付着した不純物を取り除くため、排気前にベーキングが必要である
- 陰極をスパッタするため、寿命がある
磁場の中の電極に電圧を印加するというかんたんな仕組みであるため、機械的な振動や騒音を発生させずに高真空を達成できるのがイオンポンプの大きなメリットの一つです。そのため、高真空と微細なコントロールの両方を要求される電子顕微鏡や半導体製造装置用の真空ポンプとして広く使われています。
イオンポンプ自体もあまり大きくはなく、大きいものでも机の上に乗る程度のサイズであることがほとんどです。
排気できる気体がなくなってくると消費電力が下がることや、万が一の停止時にもオイルなどの逆流がなく排気されている場所を汚さないことなどから、長時間の無人での運転にも適しており、真空状態を保持するための真空ポンプとしても多く使用されています。
一方で、デメリットとしては「大流量での排気は難しい」という点が挙げられます。多くの場合、イオンポンプの起動可能圧力は1Pa前後となっています。そのため、超高真空を得るためには、あらかじめ別のポンプで高真空状態を作っておき、イオンポンプで最後の排気と維持を行うのが一般的です。
さらにポンプの内部に不純物が吸着していると、排気を妨げるため、事前にベーキングを行い、不純物を除去する必要があります。また、陰極のチタンがスパッタされ、ポンプの内壁などに成膜されていくため、寿命があります。適切なタイミングで機器の交換が必要です。他にも、高電圧が必要であるというのもイオンポンプのデメリットの一つです。市販のイオンポンプは、3kVや5kV、7kVで動作するように作られています。また、電源の電流や容量は、排気速度や排気容量によって、数十ワットから数百ワットの電源が使われます。
松定プレシジョンでは、イオンポンプ動作用のモジュール電源や専用電源のラインナップを揃えております。イオンポンプへの給電を行うだけでなく、微少な電流の変化を正確に検出できるため、真空状態をモニターできます。
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株式会社アルバック
https://showcase.ulvac.co.jp/ja/products/high-vacuum-pump/ -
キヤノンアネルバ株式会社
https://anelva.canon/business/component/pu_detail01.html -
アジレント・テクノロジー株式会社(旧バリアン)
https://www.agilent.com/en/product/vacuum-technologies/ion-pumps-controllers -
ガンマバキューム社
https://www.gammavacuum.com/
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参考文献
- 真空ポンプ.com
http://www.shinku-pump.com/vacuumpump/sputter_ion/